『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ), 作家別(や行), 山内マリコ, 書評(か行)
『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷
あれはたしか、25歳をちょっと過ぎたころ。久しぶりに会った高校の同級生の財布がルイ・ヴィトンの長財布に変わっていて、「おやっ!? 」と思ったことがあった。まだまだ学生気分を引きずっていたわたしには、ヴィトンの財布というとどこか遠い世界のアイテムという感じがして、「友よ、君はもうそんな大人に・・・・」とせつなく思ったものだ。(冒頭にある「行き着く先はプラダの財布」より抜粋)
この本は「週刊文春」にて、2014年春から1年ちょっとの間連載されていたエッセイ「お伊勢丹より愛をこめて」をまとめたものです。(著者曰く)買い物を通して、好きなものへの思い、暮らし方、買い方、処分の仕方、近ごろの消費傾向、ほのかなエコ意識、果ては現代社会のあり方などにも思いを巡らす、雑駁なエッセイからなる一冊です。
お伊勢丹とは新宿三丁目にある、チェックの紙袋で有名な百貨店、伊勢丹新宿店のこと。不況で経営難に陥るデパートの様子ばかりを見てきた中にあって、著者にとっては他のどの百貨店より畏敬と憧憬を今もってかき立ててくれる特別な場所なのだそうです。
そうは言っても、高級なブランド品ばかりを取り上げては「私は伊勢丹へ日参しています」的なことが書いてあるわけではありません。30歳の半ばを迎えた今日、多少値の張る物であったとしても、(安くてカワイイ大量消費に踊らされた20代とは違い)、ずっと使える「いいもの」が欲しくなってきたということ -
ようやくのこと、この年齢にして自分が稼いだお金で好きなものを買えるくらいの自由を手に入れ、それくらいにはなれたので、誰彼に惑わされることなく、なるべくなら本当に自分が欲しいと思ったものを買うようになりました、といったことが書いてあります。
ま、伊勢丹が好きだと言うくらいですからプチセレブな感があるのは否めないにしても、まるで興味がない男の私には、例えば「GUCCIのスウィングレザートート」「アントン・ヒュニスのピアスとネックレス」「LITTLE SUNSHINEのタオル」と言われても、一々が何がどうでいいのかが分かりません。
さすがにGUCCIくらいは知っていますが、それがもの凄く高価なものなのか、それともちょっと奮発すれば普通のOLにも手が届くくらいのものなのかが判然としません。
そう言えばうちの奥さんも、たまに気に入ったタオルがあったから買ってきたなどと言うときがあります。値段のことはさておき、そのタオルのオシャレさを言い、製造元のセンスの良さをしきりに褒めるのですが、
私にしてみれば、タオルはタオル。他人様にはおよそ目に触れない風呂場や台所で使うものなら、どこかで貰った粗品のそれでも何ら支障はないわけで・・・・、
しかしそれを言ったらおしまいで、せっかくの奥さんの気持ちをむやみに盛り下げるだけになるのは私にだって分かります。そんなことは決して口にしません。「中々どうしていいセンスやないの! 」と、さしてそうとも思っていないことを言ってみたりするわけです。
そうかと思えば、「現代人とユニクロ」であるとか「4Kテレビという暴走」などといった、今の世の中の風潮をチクリと風刺するようなものがあります。
郊外の幹線道路沿いに大きな看板を掲げたチェーン店がたくさんあるのを見るにつけ、そういった店が新たにできることを「善きこと」として、何の疑いもなく喜んでいる両親や地元の友達の、画一的すぎる無邪気な反応が空怖ろしいという投書を紹介し、
確かに、新規店オープンの折込みチラシを見ると、「わ~こんなのできたんだ」と反射的に目を輝かせてしまうけれど、その流れの先にあるのは、個人がやっている味のある店が淘汰されたディストピア(ユートピアの反対語)的な街の姿なのだと言います。
それをいち早く「異変」と捉え「怖い」と感じる投書人は、現代社会における炭鉱のカナリアのような存在なのかも知れないと結んでいます。
※「炭鉱のカナリア」とは、鉱山の地中深くの坑道で酸欠状態になった状況で、カナリアは失神して止まり木から落ちます。それを見た労働者は坑道から地上へ退避します。つまり、身を捨てて多くの人を救う、そんな存在を指して使われる用語です。
一端の大人になったのでもうユニクロには行きません、と言っているわけではないのです。下着からアウターまでの商品が揃っており、もはやインフラ並みの存在となっていることは素直に認め、久しぶりに店に入れば、イネス・ド・ラ・フレサンジュとのコラボ商品が並んでいるのを見て興奮することはするのです。
ただ、(ユニクロの服というのは)買うときはすごく楽しいけれど、着るときはあんまり楽しくない。だから(コラボ商品を見た)そのときも、結局は何も買わずにいたといいます。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。
作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「パリ行ったことないの」「かわいい結婚」「さみしくなったら名前を呼んで」他
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