『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発行

Once an Idol Always an Idol 第14回 R – 18 文学賞読者賞受賞作  

曖昧に乱暴に過ぎていく毎日を生きるための応援歌! 悶絶しそうなほど愛おしかった辻村深月 (選考委員選評より) 

アイドルになりたくて仕方がなかったあたしとアイドルに憧れたことのない相方、元アイドルの母親のせいで注目される子供たち、親友の推しに顔を似せていく女子大生。アイドルは色んなものを覆い隠して、私たちに微笑みかけてくる。曖昧に乱暴に過ぎていく毎日に推しがいてくれてよかった。「女による女のための R – 18 文学賞」 読者賞受賞作を含む珠玉の短編集。『くたばれ地下アイドル』 改題。(新潮文庫)

「アイドル」 とはいったい何なのか。「推し」 とは?

たいていが他人事のようにして見聞きしているものが、人を変え角度を変えて、克明かつクールに綴られています。簡単な話ではありません。気づかされ、考えさせられることが多くある中で、私と同様、けっこうな年配のあなたにも読んでほしいと思う一冊です。

目次
くたばれ地下アイドル
犬は吠えるがアイドルは続く
君の好きな顔
アイドルの子どもたち
寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ


解 説 吉川トリコ

どいつもこいつも推し活、どいつもこいつもアイドル - そんな飽和状態の狂騒の時代を、アイドル自身や推す側、その周辺にいる者といったさまざまな視点から複層的に重奏的に書いた小説が、本書 『アイドルだった君へ』 である。

くたばれ地下アイドル」 の種村は、地下アイドルとして活動する同級生の内田くんを冷笑的に眺めているが、彼の意外な一面を知ることで変化が訪れる。

犬は吠えるがアイドルは続く」 では女性二人組のアイドルユニット・ノンシャランのデビューから再ブレーク、さらにその先の未来へと続く怒濤の十年を描く。

君の好きな顔」 の語り手・夏子は、友人・晶の歓心を得るため、晶の推しアイドルの顔真似にのめりこんでいく。

アイドルの子どもたち」 はタイトルそのまま、かつて一世を風靡した二人組の女性アイドルユニットの子どもたちの視点から語られる現在地。

最後を締めくくる 「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」 は、推しのいるすべての人間にとってのレクイエムであり応援歌のような一編 (読みながら私は涙と脇汗でぐちょぐちょになりました)。

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全編を通して、アイドルを商品として成り立たせるシステムや推し活という言葉に含まれる欺瞞性を暴き、アイドルそのものというよりアイドルという現象にふりまわされている人たちを批評的に、けれど決して突き放すことなく、「私たち」 の物語として描出する。そのひんやりとかわいた筆に、要所要所でエモをのっけてくる絶妙なバランス感覚がとにかく新鮮でいちいちしびれたが、でもそもそもこれって、アイドルを賢しげに語って悦に入っている 「俺たち」 の態度そのものじゃないの? と思ってぎくりともした。

アイドルとはなにかとか、推し活の功罪だとか、すでにあちこちでさんざんっぱら語られているし、アイドル産業及び推し活についてみんながみんな憂えたことを言いがちだけど、だれもがそれでもアイドルに夢を見ている。人生をあきらめないためにアイドルを必要としている。アイドル自身さえも - むしろアイドルだからこそ人一倍。(解説より)

※「アイドル」 や 「推し」 に対する見方が変わるのではないかと。何より、それらが 「生きる力になる」 という事実を軽んじてはいけません。よくよく考えてみてください。きっとあなたにも、(あなただけの) 推しがいる (ある) はずです。それを糧に生きてはいませんか?

この本を読んでみてください係数 85/100

◆小林 早代子
1992年埼玉県生まれ。
早稲田大学文化構想学部卒業。

2015年、「くたばれ地下アイドル」 で 「女による女のための R – 18 文学賞」 読者賞を受賞し、同名の単行本にてデビュー。ほかの著書に 『たぶん私たち一生最強』 がある。

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