『喧嘩(すてごろ)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『喧嘩(すてごろ)』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(さ行), 黒川博行

『喧嘩(すてごろ)』黒川 博行 角川書店 2016年12月9日初版

売られた喧嘩は買う。わしの流儀や

建設コンサルタントの二宮は、議員秘書からヤクザ絡みの依頼を請け負った。大阪府議会議員補欠選挙での票集めをめぐって麒林会と揉め、事務所に火炎瓶が投げ込まれたという。麒林会の背後に百人あまりの構成員を抱える組の存在が発覚し、仕事を持ち込む相手を見つけられない二宮はやむを得ず、“組を破門されている”桑原に協力を頼むことに。選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけた桑原は大立ち回りを演じるが、組の後ろ盾を失った代償は大きく - 。

腐りきった議員秘書と極道が貪り食う巨大利権を狙い、代紋のない“丸腰”の桑原と二宮の「疫病神」コンビ再び。(単行本帯より)

喧嘩に武器は一切持たない - そんな流儀を「素手喧嘩」(=ステゴロ)というらしい。『喧嘩』と書いて「すてごろ」。如何にもこの人らしい凝ったネーミングだと思いきや、読んでみると、それはもう(そうとしか名付けられない)喧嘩ばかりの話なわけです。

毎度おなじみ、ヘタレの建設コンサルタント・二宮とイケイケの“元”ヤクザ・桑原との「疫病神コンビ」が巻き起こす騒動を描いて人気の、シリーズ最新作。

今回、これまで以上に無茶をするのは桑原で、しかし、桑原はもはや“元ヤクザ”でしかありません。“神戸川坂会系二蝶会 若頭補佐”として肩で風切って歩いていたのは去年の九月までの話。本家筋との不義理が重なって破門処分となり、今は堅気になっています。

正月の五日。二宮が事務所へ行くと、仕事関係や知り合いに混じって『キャンディーズ』という店からの年賀状があります。これはひょっとして、と裏を見ると、そこには「多田真由美拝」とあります。真由美は桑原の内妻で、カラオケボックスを経営しています。

健気やな - 。あの疫病神とは似ても似つかぬよくできた女で、なぜあんな腐れと暮らしているのか。ある種の洗脳だろうか。なら誰かが解いてやらないと、真由美は一生涯を囚われの身で終えてしまう。そこまで考えて、思わず笑ってしまう二宮 -

あほか、おまえは。余計なお世話やろ。自分の頭の蠅も追えんやつが他人のことをどうこういえるんかい。おまえは内妻どころか、つきおうてくれる女もおらんのやぞ - 。ひとりでつっこみ、ひとりでぼける。ばかばかしい・・・・

このとき二宮は、(おそらく)随分と久しぶりに桑原を思い出しています。これがそもそもの始まりで、真由美からの年賀状を眼にした二宮は、背に腹は代えられないと、(決して本意ではないふうをして)桑原に探りを入れてみようと思い立ちます。

二人はいうほどに嫌いではなく、互いが思うほどには違わないのです。桑原を「腐れ」というのなら二宮もまたそうで、実のところ二人は同じ穴の狢。そんな己を桑原はよく承知しており、二宮にはまるでその自覚がありません。

高校時代のクラスメイトで、今は議員秘書をしている長原から受けた依頼を振る先が見つけられずに、(よせばいいのに)二宮は、あれほど嫌っていた桑原(二宮は内心、桑原のことを「尻尾の先が三角になった悪魔」だと思っています)に対し、桑原さんでないとできんサバキやないかと、仕事の相談を持ちかけます。

二宮が請け負ったのは議員事務所と組筋のトラブル - 候補者への票集めを裏で組組織へ依頼した筆頭秘書が、組が要求した報酬を法外として蹴ったことに端を発するもの - で、

本来二宮の専門である建設関係とはおそよ畑違いの捌きであるわけですが、それとは別に、他にある金の匂いを嗅ぎつけてかどうか、桑原が「そのサバキ、請けてもええ」というところから、この騒動は始まっていきます。

それが何より面白く、そして笑ってしまうのです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。

作品 「二度のお別れ」「左手首」「雨に殺せば」「八号古墳に消えて」「ドアの向こうに」「絵が殺した」「離れ折紙」「悪果」「疫病神」「国境」「破門」「後妻業」「勁草」他多数

関連記事

『サンブンノニ』(木下半太)_書評という名の読書感想文

『サンブンノニ』木下 半太 角川文庫 2016年2月25日初版 銀行強盗で得た大金を山分けし、

記事を読む

『雨に殺せば』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『雨に殺せば』黒川 博行 文芸春秋 1985年6月15日第一刷 今から30年前、第2回サント

記事を読む

『絶対泣かない』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『絶対泣かない』山本 文緒 角川文庫 2025年11月25日 初版発行 「仕事で疲れて本も読

記事を読む

『勁草』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『勁草』黒川 博行 徳間書店 2015年6月30日初版 遺産を目当てに、67歳の女が言葉巧みに老

記事を読む

『死ぬほど読書』(丹羽宇一郎)_書評という名の読書感想文

『死ぬほど読書』丹羽 宇一郎 幻冬舎新書 2017年7月30日第一刷 もし、あなたがよりよく生きた

記事を読む

『騒がしい楽園』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『騒がしい楽園』中山 七里 朝日文庫 2022年12月30日第1刷発行 舞台は世田谷

記事を読む

『203号室』(加門七海)_書評という名の読書感想文

『203号室』加門 七海 光文社文庫 2004年9月20日初版 「ここには、何かがいる・・・・・・

記事を読む

『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その2)

『後妻業』(その2) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷 ※二部構成になってます。

記事を読む

『乳と卵』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『乳と卵』川上 未映子 文春文庫 2010年9月10日第一刷 娘の緑子を連れて大阪から上京した

記事を読む

『小説 ドラマ恐怖新聞』(原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭)_書評という名の読書感想文

『小説 ドラマ恐怖新聞』原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑