『文豪、社長になる』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文

『文豪、社長になる』門井 慶喜 文春文庫 2025年7月10日 第1刷

芥川君、ありがとう。君は生涯の恩人だ」 言ったとたん、涙があふれた - 「寛と寛」(ひろしとかん)」 芥川龍之介と菊池寛。正反対なふたりは惹かれ合い、数多の仕事を共にした。親友だった。

ベストセラー連発! 「文藝春秋創業者・菊池寛を銀河鉄道の父の門井慶喜がユーモアたっぷりに描く

『真珠夫人』 や 『恩讐の彼方に』 などヒューマニズムに溢れた大衆小説が人々の心を摑み、菊池寛は一躍ベストセラー作家に。大正12年、「文藝春秋」 創刊。芥川龍之介や川端康成ら才人は引きも切らず、雑誌は売れに売れ・・・・・・・活字が何よりの娯楽だった時代にお茶の間を沸かせ続けた天才プロデューサーの実像とは? 解説・秋元康 (文春文庫)

夏目漱石 (この人だけは別格。既に作家として世に出ています) をはじめ、久米正雄、芥川龍之介、そして植村宗一 (のちの作家・直木三十五)。川端康成、横光利一に今東光・・・・・・・。ほかにもまだまだ、日本の近代文学史に燦然と輝く 「文豪」 たちが続々と登場します。

そして、その “将来必ずや世に出るであろう作家たち“ を真の文豪にならしめたもう一人の文豪がおり、それが菊池寛その人でした。己がベストセラー作家だけでは飽き足らず、見込みある同輩や後輩たちの小説を何とかして売り出そうと思い付いたのが 「雑誌の発行」 でした。名を 【文藝春秋】 とします。

そもそも、売れっ子作家と、出版社の経営者って、同時にできるものではないと思います。画家と画商は一緒にできるものじゃない。ありえないからクリエーターはみんなスタジオジブリの宮崎駿さんと鈴木敏夫さんの関係を夢みるわけで、その両立をひとりでやってのけたのが菊池寛なんですよね。

本人はいたって楽しくやっていたでしょう。文学者の矜持と、プロデューサーとしての柔軟な発想、そのふたつを携えて、「二足の草鞋」 を悠々と履きこなしていた。

いまも続く 「芥川賞」 や 「直木賞」 という文学賞を創設して、その選考委員だって自ら嬉々としてやってね。実際のところ、主題も文体もマチマチな小説をたくさん読むのって、すごく疲れる。でも彼はそれを苦と思わなかったんですね。「輝く才能にまた出会えるかもしれない」 と金鉱掘りに胸躍らせているのが目に浮かびます。まるで小学生のように、面白いものへと純真無垢に引き寄せられているんでしょう。それが結果として菊池寛とまだ見ぬ才を結びつけ、そして菊池寛の影響によって、そのひとたちの人生が大きく変わっていく。僕らが知っているあの文豪も、この作家も、みんな菊池寛との出会いによって、自分の道を歩み始めている。(解説より)

※読み易くかつ面白い。(上述の作家たちの) 今更誰にも訊けないことや、知るとちょっと得をした気になるエピソードの数々が事細かに綴られています。全部が全部そのままではないのでしょうが、まだ芽が出る前の 「文豪たち」 と、彼らを支え続けたもう一人の文豪・菊池寛との、稀に見る天才同士の丁々発止のやり取りから目を離すことができません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆門井 慶喜  1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。

作品 「東京帝大叡古教授」「家康、江戸を建てる」「銀河鉄道の父」「キッドナッパーズ」「マジカル・ヒストリー・ツアー/ミステリと美術で読む現代」(評論) 他多数

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