『冬雷』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/08
『冬雷』(遠田潤子), 作家別(た行), 書評(た行), 遠田潤子
『冬雷』遠田 潤子 創元推理文庫 2020年4月30日初版
因習に縛られた港町。12年前、名家を襲った失踪事件。事件で全てを失った青年が辿り着いた、悲劇の真相とは? 人間ドラマの名手が贈る、濃密な長編ミステリ! 第1回未来屋小説大賞受賞作。(創元推理文庫)
2016年、大阪で鷹匠として暮らしている夏目代助のもとに、かつて住んでいた魚ノ宮町から三森龍が現れた。龍の妹の愛美は代助に恋慕した挙げ句、3年前に自ら死を選んでいた。その恨み言をぶつけに現れたのかと身構える代助に、龍は 「ちょっと面白いことになってな」 と思わせぶりな言葉を残して去る。翌日、代助のもとを警察官が訪れる。12年前に行方不明になった代助の義弟・千田翔一郎の遺体が、魚ノ宮町の鷹櫛神社の氷室から見つかったというのだ。どうやら、第一発見者である加賀美真琴が疑われているらしい。代助が18歳で町を離れる原因となったあの出来事が再び動き出した・・・・・・・。彼は12年ぶりの帰郷を決意する。
- ここまでが導入部。物語の核心は以後語られる2000年以前の魚ノ宮町にあります。
代助は両親の顔も名も知らない。夏目代助という名も、産婦人科の前に捨てられた時に横に置いてあった夏目漱石の小説 『それから』 の主人公に因んだものだ。施設で11歳まで育てられた彼は、1998年、魚ノ宮町の旧家 「冬雷閣」 の当主・千田雄一郎の養子として引き取られる。鷹匠の家系である雄一郎は、代助を厳格な態度で養育する。雄一郎の弟・加賀美倫次は鷹櫛神社の神主となっており、その娘が巫女の真琴である。
代助が境遇を受け入れた頃、その運命を一変させる出来事が起こる。雄一郎と妻・京香のあいだに実子の翔一郎が誕生したのだ。雄一郎夫婦をはじめ町の人々が翔一郎を冬雷閣の後継者と見なす中、代助は孤立感を深めていく。そんな彼に、今度は鷹櫛神社の後継者という新たな道が拓けるかに見えた。彼は、真琴といつしか惹かれあう仲となっていた。ところが2005年、神社の冬の大祭の直後に翔一郎が失踪し、それが原因で代助は千田家と絶縁し、魚ノ宮町を離れたのだった。12年ぶりの彼の帰郷は、町にどのような波紋を拡げるのか?
- と続いていきます。(以上は解説より抜粋)
(やややさしめの 『八つ墓村』 といったところでしょうか?) 日本海に面した小さな町・魚ノ宮町は田舎も田舎、コンビニ一軒見当たりません。
この町で何より重んじられるのは、年に一回催される 「冬の大祭」 。そこでは代々鷹匠の家系を継ぐ冬雷閣で飼育された鷹が海を舞い、鷹櫛神社を継ぐ巫女が神楽 「鷹の舞」 を舞います。
子のない千田家の養子となった代助は鷹匠となり、いずれ冬雷閣の当主となることを約束されています。鷹櫛神社の娘・真琴は亡き母の後を継ぎ、巫女として日々の修業に励んでいます。
二人は強く惹かれ合うのですが、冬雷閣の男と鷹櫛神社の女は決して結ばれることはありません。結ばれないことで、男と女は何百年も町を守ってきたのだといいます。それをくだらない迷信だと笑うか、それとも古き良き伝統だと誇るか・・・・・・・
「真琴には気を許すな」 雄一郎がそう言った意味を代助が本当に理解したのは、養子となって数年後、彼が中学2年生になった頃でした。真琴との未来を思うと、彼の胸の苦しさは日々強くなっていきます。そして、ある日突然、代助は理解したのでした。この苦しさは、絶望なんだと。
冬雷閣当主と鷹櫛神社の巫女は一生離れられない。だが、決して結ばれることはない。代助と真琴はどれだけそばにいても一緒になれない。死ぬまで生殺しだ。(P117)
事件は、こんな状況下で起こります。
※未来屋小説大賞・・・・・・・未来屋書店の従業員の中から選りすぐりの読者好きが選考し、決定するもの。一般的には認知度が低い本であっても従業員が本の面白さを紹介し新たにスポットを当てることで、次のベストセラー作を生み出し、広く世に紹介していくという趣旨のもとに選考している。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。
作品 「月桃夜」「カラヴィンカ」「アンチェルの蝶」「お葬式」「あの日のあなた」「雪の鉄樹」「蓮の数式」「オブリヴィオン」他
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