『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『死ねばいいのに』(京極夏彦), 京極夏彦, 作家別(か行), 書評(さ行)

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版

3ヶ月前、マンションの一室でアサミという女が謎の死を遂げた。彼女について知りたいと執拗に問いかける、若い男。派遣社員だった彼女と同じ職場にいた中年男・山崎、彼女のマンションの隣人だった女性・篠宮、彼女と〈個人的な〉関係にあった三十路をすぎた下っ端暴力団組員・佐久間、彼女の母親の尚子・・・。
ある日突然現れる若い男の無礼な問いかけの言葉の数々に、みな心を掻き乱され、じわじわと自身の嘘に追い詰められていく。アサミのまわりの人間に次々と接触していく彼は、一体何者なのか。若い男の追及に大人たちは自分の業をさらけ出し、やがてひとつの真実が浮かび上がってくる-。(「ダ・ヴィンチ」誌掲載のあらすじ紹介より)

登場人物は皆、死んだアサミ(亜佐美)と浅からぬ関わりを持つ者ばかりです。彼らの前に、ケンヤと名乗る今どきの青年が突然現れます。ケンヤはいかにもチャラい物言いで、彼らに向かって生前の彼女のことを聞かせてほしいと迫ります。

しかし、ケンヤに対して彼らが語るのは自分自身のことばかりで、死んだアサミを悼むどころか、不遇な自身の日常を呪い、周囲の人間を恨み蔑む言葉を吐くばかりです。自分の落ち度を棚に上げ、自分は悪くないんだと必死になって訴えます。

例えば、一人目の山崎の場合。
「お前みたいな人間に解るかよ。私の苦労が。嫌でも辞められないんだよ。辛くても別れられないんだよ。辛くて辛くてやってられないけど、もう限界だけど、それでも止められないんだ馬鹿野郎」

お前なんかに解らない、と繰り返し叫ぶ山崎。言われたケンヤは、「ならさ」

-死ねばいいのに。
・・・・・・・・・・
という小説です。

物語は〈一人目。〉から〈六人目。〉まで、6つの章で構成されています。山崎、篠宮、佐久間、アサミの母親ときて、五人目が警察官。そして最終、六人目に登場するのは弁護士です。

ケンヤがアサミの話を尋ねて回った連中は、みんな死ねばいいのにと言うと、嫌だと言います。

それはきっと普通のことで、誰もが生きたいに決まっています。未練たらたらで、不満だらけで、自分は不幸だと言うのは当たり前。それでも人間は生きている。生きるために生きているから、死にたくなんかないのです。

でも、万が一、
・・・死ねばいいのに、と誰かに言って、
・・・そうね、死にたい、・・・などと相手が応えたとしたら、

そのとき、人は、一体どんなリアクションをとればいいのかしら?

この本を読んでみてください係数 85/100

◆京極 夏彦
1963年北海道小樽市生まれ。
北海道倶知安高等学校卒業。専修学校桑沢デザイン研究所中退。

作品 「鉄鼠の檻」「魍魎の匣」「嗤う伊右衛門」「百鬼夜行-陰」「覘き小平次」「後巷説百物語」「邪魅の雫」「西巷説百物語」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』櫛木 理宇 双葉文庫 2021年9月12日第1刷

記事を読む

『抱く女』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『抱く女』桐野 夏生 新潮文庫 2018年9月1日発行 女は男の従属物じゃない - 。1972年、

記事を読む

『うちの父が運転をやめません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『うちの父が運転をやめません』垣谷 美雨 角川文庫 2023年2月25日初版発行

記事を読む

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』(姫野 カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』姫野 カオルコ 徳間文庫 2016年3月

記事を読む

『死にぞこないの青』(乙一)_書評という名の読書感想文

『死にぞこないの青』乙一 幻冬舎文庫 2001年10月25日初版 飼育係になりたいがために嘘をつい

記事を読む

『雨に殺せば』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『雨に殺せば』黒川 博行 文芸春秋 1985年6月15日第一刷 今から30年前、第2回サント

記事を読む

『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁)_書評という名の読書感想文

『十二人の死にたい子どもたち』冲方 丁 文春文庫 2018年10月10日第一刷 廃病院に集結した子

記事を読む

『絶叫』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『絶叫』葉真中 顕 光文社文庫 2019年3月5日第7刷 - 私を棄てたこの世界を騙

記事を読む

『破蕾』(雲居るい)_書評という名の読書感想文

『破蕾』雲居 るい 講談社文庫 2021年11月16日第1刷 あの 冲方 丁が名前

記事を読む

『十七八より』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文

『十七八より』乗代 雄介 講談社文庫 2022年1月14日 第1刷発行 注目の芥川賞候補作家

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑