『切願 自選ミステリー短編集』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『切願 自選ミステリー短編集』長岡 弘樹 双葉文庫 2023年3月18日第1刷発行

長岡弘樹、作家デビュー20周年記念刊行 120編超の自作短編ミステリーから、著者厳選の5編 小説推理新人賞受賞作、20年の時を経て初収録!

2003年に作家デビュー後、ミステリー界の最前線で発表してきた短編小説は120編超。その中から、著者が選りすぐった5編を収録。くわえて、これまで未刊行だった第25回小説推理新人賞受賞作 「真夏の車輪」 を大幅に加筆修正して初収録。作家生活20周年を彩るにふさわしい一冊に。「短編ミステリーの名手」 による巧妙な伏線、予想外の結末、ビターな人間ドラマを存分に堪能できる、ザ・ベスト・オブ・長岡ミステリー! (双葉文庫)

[目次]
1 小さな約束
2 わけありの街
3 黄色い風船
4 苦い確率
5 迷 走
6 真夏の車輪 (第25回小説推理新人賞受賞作)

稀なことですが、巻末の 「あとがき」 には 「自作解説」 が載っています。

小さな約束
医者が患者に何か約束をし、それを守ることをこまめに繰り返していると、両者の間で信頼関係が深まり、患者の治りも早くなる。しかもその約束は、「あなたの入院中、わたしは禁煙します」 などといった大きなものではなく、「十分後に診断結果を伝えにきます」 ぐらいの小さなものでいい。
そのような話をどこかで耳にしたことが、着想の発端だったはずです。これはちょっと面白いなと思い、頭の中でいじりまわしているうちに、少しずつ 「臓器移植」 という題材が見えてきました。それが構想の順序であり、何か重いテーマが最初から念頭にあったわけではありません。

わけありの街
この小説には、試作モデル的な作品がまずありました。たしか2002年ごろ、デビューする前の習作として、「田舎住まいのある母親が、息子の殺された場所である都会の街へやってきて、事件の真相解明を試みる」 という筋の短編を書いたことがあったのです。
でもこの試作品、出来がよくなかったので、哀れ推敲すらされることなく、パソコンのハードディスク内で長い冬眠に入るという運命を辿ってしまいました。

併合罪なる刑法の規定をネタにして何か書いてみよう、と考えたのは、それから10年ぐらい後のこと。そのとき、なぜかふと件の試作品を思い出しました。読み返しているうちに、どうにかその法律ネタで改稿できそうだなと気づき、ご覧のような作品に仕立ててみた、という次第です。

※残る4作品についても同様に、著者が自ら記した解説を読むことができます。書こうと思った理由は、「わたしは、ほかの作家さんの短編集を読んだとき、その巻末に自作解説がついていると、つい嬉しくなってしまうたちで」 「自分でもそれをやってみよう」 と思ったからだそうです。

自作解説の他に、この本にはもう一つ、著者のプライベートに迫る貴重なヒントとなるものが開示されています。文庫のカバーを見てください。- 著者の仕事場を写した (デジカメで自らが撮った) ものだそうです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆長岡 弘樹
1969年山形県山形市生まれ。
筑波大学第一学群社会学類卒業。

作品 「陽だまりの偽り」「傍聞き」「教場」「教場2 」「線の波紋」「波形の声」「血縁」「にらみ」「夏の終わりの時間割」「119 イチイチキュウ」他多数

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