『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日 3刷

互いの痛みがわたしたちの絆だった。怖くて哀しく愛らしい絶望的な少女たちの短編集

比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、次いで管理人の妹が自ら命を絶つ。彼女の日記を手にした 「私」 は、オーブランに秘められた恐ろしい過去を知る・・・・・・・楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第七回ミステリーズ! 新人賞の佳作となった表題作の他、醜い姉と美しい妹を巡るヴィクトリア朝犯罪譚 「仮面」、昭和初期の女学生たちに兆した淡い想いの意外な顛末を綴る 「片思い」 など、異なる場所、異なる時代を舞台に “少女“ という謎 (ミステリ) を描き上げた、瞠目のデビュー短編集。(創元推理文庫)

初読。気にはなっていました。本屋へ行くたび目にする 『ベルリンは晴れているか』 という本が。買うかどうかをずっと迷っていたら、デビュー作が文庫で出ているのを発見し、なら、まずはそれを買って読んでみようと - 。驚きました。この人、只者ではありません。

2013年、本作品を単行本刊行直後に読み、驚いてすぐに著者インタビューを申し込んだ。当日は思わず真っ先に 「今までどこにいたんですか」 と訊いてしまった。というのも、これだけの才能の持ち主が、これまで誰にも注目されていなかったことが不思議だったからだ。

その才能の持ち主、深緑野分は2010年、短篇 「オーブランの少女」 でミステリーズ! 新人賞の佳作に入選し、2013年10月、受賞作を巻頭に置いた 『オーブランの少女』 で単行本デビューを果たした。本書はその文庫化作品である。

Ж

とにかく、舞台設定からして読者をときめかせる作家である。美しい庭園、ヴィクトリア朝時代のロンドン、客の少ない安食堂、昭和の女学校、凍てつく北の国 - 。そこに物語好きの心をくすぐるモチーフがちりばめられている。古今東西の作品を読み、そのエッセンスを吸収して育ち、物語を愛してきた著者だから選ぶ舞台やモチーフがあり、そこから豊かな世界が築けるのは、彼女自身が物語から愛されている証だ。(瀧井朝世/解説より)

※どこでどんなふうに育てば、こんな作家が “できる“ のか? 興味があって、“真似して“ 書いた? いやいや、そんなことだけではこんな話は書けません。人には言えない特別な、何か秘策があるに違いありません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆深緑 野分
1983年神奈川県生まれ。
神奈川県立海老名高等学校卒業。

作品 2010年、「オーブランの少女」 が第7回ミステリーズ! 新人賞佳作に入選し、デビュー。他の作品に 『戦場のコックたち』 『分かれ道ノストラダムス』 『ベルリンは晴れているか』 がある。

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