『消えない月』(畑野智美)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『消えない月』(畑野智美), 作家別(は行), 書評(か行), 畑野智美
『消えない月』畑野 智美 集英社文庫 2023年11月10日 14版発行
追う男、追われる女。ラスト37ページ、本を落とすほどの衝撃!
別れたい 絶対に許さない このやりとりですべて終わる、はずだった - 最恐ストーカー小説!
商店街の小さなマッサージ店に勤めるさくらは、28歳の誕生日を祝ってくれた客の松原と付き合うことになった。出版社に勤める彼と過ごす幸せの絶頂のような期間はつかの間で、関係は悪夢のように変わっていく。強く束縛され、少しでも反論すると激怒され、乱暴に扱われることに嫌気が差して別れを告げると、松原はさくらを付け狙うようになる。預かっていた合鍵を頑として返さない松原の妄想は、加速度を増してゆくが - 。(角川文庫)
(最初に断っておきますが) 気持ちのいい話ではありません。松原は狡猾で理不尽で手前勝手で、それでも自分が正しいと信じています。友人の助言や第三者からの警告といったものを一切受け付けません。相手の心はすでに自分にないと知りながら、それでも執着し続けます。
絶体絶命になる前に、さくらは松原との関係を解消することができたはずです。できなかったのは、彼女の生来の純朴さのせいでした。蹂躙されてもなお、さくらは松原を信じようとします。その危うさとじれったさに、あなたは歯噛みすることでしょう。
小説は二人の主人公がそれぞれ一人称で語るという構成になっていて、ストーカーと被害者の意識の落差を、ここまで書くかというくらいに詳らかにし、進行する。夢見心地で始めた交際はあっという間に事故現場のような有様になる。予想もしていなかった支配者として君臨する松原君に驚くさくら。苦悩し、「別れたい」 と一言だけのラインをしたが、素直すぎた。ストーカーが飛び立つ滑走路を造ってしまった。(解説より)
※あとは書きません。逃げても逃げても追いかけてくる松原から、果たしてさくらは逃げ切れるでしょうか。絶え間ない苦痛とおそろしい労力の末、さくらが行き着いた先は? そして松原は・・・・・・・
この本を読んでみてください係数 85/100
◆畑野 智美
1979年東京都生まれ。
東京女学館短期大学国際文化学科卒業。
作品 「国道沿いのファミレス」「海の見える街」「南部芸能事務所」シリーズ「水槽の中」「神さまを待っている」他多数
関連記事
-
『コクーン』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
『コクーン』葉真中 顕 光文社文庫 2019年4月20日初版 1995年3月20日
-
『金魚姫』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『金魚姫』荻原 浩 角川文庫 2018年6月25日初版 金魚の歴史は、いまを遡ること凡そ千七百年前
-
『こちらあみ子』(今村夏子)_書評という名の読書感想文
『こちらあみ子』今村 夏子 ちくま文庫 2014年6月10日第一刷 あみ子は、少し風変りな女の子。
-
『カエルの楽園』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文
『カエルの楽園』百田 尚樹 新潮文庫 2017年9月1日発行 平和な地を求め旅に出たアマガエルのソ
-
『カラフル』(森絵都)_書評という名の読書感想文
『カラフル』森 絵都 文春文庫 2007年9月10日第一刷 生前の罪により輪廻のサイクルから外され
-
『凶獣』(石原慎太郎)_書評という名の読書感想文
『凶獣』石原 慎太郎 幻冬舎 2017年9月20日第一刷 神はなぜこのような人間を創ったのか?
-
『この世の全部を敵に回して』(白石一文)_書評という名の読書感想文
『この世の全部を敵に回して』白石 一文 小学館文庫 2012年4月11日初版 あなたは子供の頃、
-
『螻蛄(けら)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『螻蛄(けら)』黒川 博行 新潮社 2009年7月25日発行 信者500万人を擁する伝法宗慧教
-
『スメル男 (新装版)』(原田宗典)_書評という名の読書感想文
『スメル男 (新装版)』原田 宗典 講談社文庫 2021年1月15日第1刷 「腐っ
-
『木洩れ日に泳ぐ魚』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田 陸 文春文庫 2010年11月10日第一刷 舞台は、アパートの一室。別々