『ボラード病』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2017/03/15 『ボラード病』(吉村萬壱), 作家別(や行), 吉村萬壱, 書評(は行)

『ボラード病』吉村 萬壱 文春文庫 2017年2月10日第一刷


ボラード病 (文春文庫)

B県海塚市は、過去の災厄から蘇りつつある復興の町。皆が心を一つに強く結び合って「海塚讃歌」を歌い、新鮮な地元の魚や野菜を食べ、港の清掃活動に励み、同級生が次々と死んでいく - 。集団心理の歪み、蔓延る同調圧力の不穏さを、少女の回想でつづり、読む者を震撼させたディストピア小説の傑作。◎解説・いとうせいこう(文春文庫)

・・・・しかし本当に病気なのはあなた方のほうです。せいぜいそうやって、どこまでも仮想現実を生きていけばいいんだ。もう何十年も経ってしまったから、戻れないんでしょう? 今更誰が「この世界は捏造だ」と言えますか?

言えるのは私や母のような人間だけです。父や藤村先生は、それを言ったから捕まったんですよね。そして私たちも捕まった。そうやって隔離して、結局は抹殺するのですね。三つ葉化学の炉で焼くのですか?

私の代わりなんてまた幾らでも出てきますからね。勝手にやればいいでしょう。もうこんな体、見たくもないのです。そこの隅っこの便器のパイプに映るんです。見たくないのに、見てしまうんですよ。こんな顔でも、あなた方には美人に見えているんでしょう?

だったら抱いてみろよ臆病者。

B県の海塚市が何処なのか、そこで起こる「災厄」とは何なのか。それについては如何ほども語られてはいません。しかし、(すべからく家屋が倒壊し消え果てたことは事実で)そこでは復興に向けて皆が一心に、まるで何事もなかったかのようにして暮らしています。

団結のための歌を歌い、何より美味しいと地元の野菜や魚を率先して食べ、浜辺をきれいに戻そうと清掃のボランティア活動に励んでいます。そのうち、(原因や理由は明かされないまま)ぽつぽつと、人が死んでゆきます。

人は、何も言いません。町で起こるすべての出来事は、ただあるままに過ぎ去ってゆきます。何か言おうとしても、強く拒む力が働きます。町の姿勢を批判する人、皆がするのにしないでいる人たちは、疎外され、思いのほか惨い仕打ちを受けることになります。

母がそうなら、当時小学5年生の恭子もそうでした。恭子はさほど勉強ができる子ではなかったのですが、自分が抱く違和感については、とても敏感な少女だったといえます。

幼いときの恭子は、母をひどく怖れます。母は恭子の振る舞いの一々に注文を付け、気に喰わないと容赦なく彼女を諌めます。食事はカップ麺や冷凍食品で賄い、肉や野菜も買うには買いますが、施設の人に寄付するのだと言い、何があっても食べようとはしません。

異常なほどの潔癖症で、部屋の隅々を気が済むまで繰り返し掃除をします。恭子が学校から預かっているうさぎの毛を見つけると、うるさいくらいに始末しろと言います。手洗いとうがいは当然で、恭子の持ち物を、母は全部把握し管理しています。

保健室の先生や児童相談の先生らに呼ばれ話をするうちに、恭子は、もしかすると自分は病気なのかもしれないと思うようになります。そういえば、もっと前からそうであったような。そして、母もまた、自分と同じ病気なのではないかと・・・・

・・・・残念ながら、私に書けるのはここまで。あとは、小説を読んで、あなた自身が味わってみてください。ひりひりして、読むと必ず、忘れられなくなります。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ボラード病 (文春文庫)

◆吉村 萬壱(本名:吉村浩一)
1961年愛媛県松山市生まれ。大阪府大阪市・枚方市育ち。
京都教育大学教育学部第一社会科学科卒業。

作品 「ハリガネムシ」「クチュクチュバーン」「バースト・ゾーン」「ヤイトスエッド」「独居45」「臣女」他

関連記事

『ホテルローヤル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ホテルローヤル』桜木 紫乃 集英社 2013年1月10日第一刷 ホテルローヤル &nb

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 八月六日上々天氣 (河出

記事を読む

『藤色の記憶』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藤色の記憶』あさの あつこ 角川文庫 2020年12月25日初版 藤色の記憶 (角川文庫)

記事を読む

『妻は忘れない』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『妻は忘れない』矢樹 純 新潮文庫 2020年11月1日発行 妻は忘れない(新潮文庫)

記事を読む

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25日初版 地獄を見

記事を読む

『八月の銀の雪』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『八月の銀の雪』伊与原 新 新潮文庫 2023年6月1日発行 「お祈りメール」 ば

記事を読む

『電球交換士の憂鬱』(吉田篤弘)_書評という名の読書感想文

『電球交換士の憂鬱』吉田 篤弘 徳間文庫 2018年8月15日初刷 電球交換士の憂鬱 (徳間文

記事を読む

『パイナップルの彼方』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『パイナップルの彼方』山本 文緒 角川文庫 2022年1月25日改版初版発行 生きづ

記事を読む

『不愉快な本の続編』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『不愉快な本の続編』絲山 秋子 新潮文庫 2015年6月1日発行 不愉快な本の続編 &n

記事を読む

『ひらいて』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『ひらいて』綿矢 りさ 新潮社文庫 2015年2月1日発行 ひらいて (新潮文庫) 文庫の解説は

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日

『うどん陣営の受難』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『うどん陣営の受難』津村 記久子 U - NEXT 2023年8月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑