『夜の床屋』(沢村浩輔)_書評という名の読書感想文

『夜の床屋』沢村 浩輔 創元推理文庫 2014年6月28日初版


夜の床屋 (創元推理文庫)

 

久しぶりに新人作家の、しかもデビュー作を読みました。略歴にも書きましたが、沢村浩輔はこの作品で「第4回ミステリーシリーズ! 」の新人賞を受賞しています。

最初にお願いしておきますが、絶対に最後まで読んでください。連作短編集と紹介されているので心配ないとは思いますが、途中で読むのをやめたり、途中から読んだりしたらこの作品は台無しなのです。騙されたと思って、「辛抱して」ラストまで辿り着いてください。

「葡萄荘のミラージュⅠ」「葡萄荘のミラージュⅡ」から「『眠り姫』を売る男」「エピローグ」までは一つの短編として読むことができます。但し、前半部3編が別個の物語かというと、そこが微妙で尚且つこの連作が過去にない秀作である所以でもあるのです。

「夜の床屋」は大学生の佐倉とその友人・高瀬が、行楽で訪れた山中で道に迷ったところから始まります。ようやく辿り着いた無人駅の周辺には店らしい店もなく、駅舎で寝ることにした二人は、夜に不思議な光景を目にします。

来たときは廃屋にしか見えなかった理髪店に灯りが点いているのです。そこには店主の三上と二十歳くらいの娘・夏美がいました。時刻は11時を過ぎています。三上から夜更けに営業している理由を聞き出すと、納得した二人は再び駅舎へ戻って寝込んでしまいます。

事の真相が判明するのは翌日です。二人は、朝食のために入った喫茶店で、通信社の記者を名乗る秋本という男から三上の意外な素性を聞くことになります。
・・・・・・・・・・
この辺りは、決して面白くないわけではないのですが、解説曰く「日常密着型」のミステリーの典型のようで、悪く言うと「あれ?これで新人賞・・」と一瞬思うかも知れません。続く「空飛ぶ絨毯」と「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」も、物語の謎自体は工夫されて興味も引くのですが、結末についてはやや曖昧で、十分なカタルシスを得ぬままに後を引くといった感じで終わっています。

そして、後半の「葡萄荘のミラージュⅠ」。物語の舞台である洋館「葡萄荘」は、初代当主・峰原幸吉の遺言で、幸吉の恩人・ローランド卿もしくはその後継者に譲り渡す目的で建てられた別荘でした。外観から内装、調度品に至るまで一切手を加えてはならないとも書かれています。

友人の峰原から頼まれて、佐倉と高瀬は「葡萄荘」を訪れることになります。友人の峰原にとって、幸吉は高祖父にあたります。近々売却される予定の「葡萄荘」に忍び込んで、隠された財宝を見つけ出す手助けに峰原は佐倉たちを誘ったのでした。

奇妙な遺言に財宝の行方、佐倉たちが到着する前に肝心の峰原は姿を消し、なぜか「葡萄荘」には多くの猫が集まっています。峰原の弟・拓美と共に、佐倉と高瀬は「葡萄荘」に隠された秘密の解明に挑みます。

その結果が思わぬ方向へ転換していくのが「葡萄荘のミラージュⅡ」であり、「『眠り姫』を売る男」です。舞台はいつの間にか日本を遠く離れ、北西ヨーロッパのスコットランド
の深い森の奥、通称〈ウィリアム八世の監獄〉と呼ばれる拘置所へと急転換します。
・・・・・・・・・・
佐倉たちが葡萄荘で探り当てた事実の先には、想像もつかない世界が待ち受けていました。解説ではそれを「ファンタジー」という言葉で表現しています。文庫の裏では「不可思議でチャーミングな・・・」という風になっています。

何がファンタジーなのか、どこがチャーミングなのか、それは最後まで読んだ方のお楽しみに残しておきましょう。

ひょっとすると、「なーんだ、そんなことかよ」と仰る方がいるかも知れません。しかし、少なくとも私に限って言うと、『夜の床屋』という地味なタイトルとノスタルジックな表紙からイメージした内容を180度ひっくり返してみせてくれた、沢村浩輔という新人作家に惜しみない拍手を送りたいと思うのです。最後まで読んだ、読者の一人として。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


夜の床屋 (創元推理文庫)

◆沢村浩輔

1967年大阪府生まれ。

阪南大学経済学部卒業。『夜の床屋』で第4回ミステリーシリーズ! 新人賞を受賞して、作家デビューする。

作品 「ユーレイ屋敷の人形遣い」

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