『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』中山 七里 宝島社文庫 2019年4月18日第1刷

凄惨な殺害方法と稚拙な犯行声明文で世間を震撼させた 「カエル男連続猟奇殺人事件」。十ヶ月後、事件を担当した精神科医・御前崎教授の自宅が爆破され、その跡からは粉砕・炭化した死体が出てきた。そしてあの犯行声明文が見つかる。カエル男の報復に、渡瀬&古手川の刑事コンビもふたたび動き出す。さらにカエル男の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし・・・・・・。破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢に、二転三転する怒濤の展開と激震のラストが待ち受ける! (宝島社文庫)

きょう、かえるをつかまえたよ。
はこのなかにいれていろいろあそ
んだけど、だんだんあきてきた。
おもいついた。みのむしのかっこ
うにしてみよう。くちからはりを
つけてたかいたかいところにつる
してみよう。

一糸まとわぬ女の肉体だった。
口からフックに吊るされて、
ゆうらり。
ゆうらり。
よく見るとその唇が微かに震えている。
まだ、息をしている? -
いや、震えているのではなかった。
口から溢れ出た無数の蛆が蠢いているのだ。

目の前で女の死体が揺れている。乾ききった青白い皮膚には下半身を中心に死斑が拡がり、開かれた眼窩からは白濁した眼球が溢れ出そうだ。口から挿し込まれたフックは上顎を貫通し、そのまま切っ先が鼻の横から突き出ている。それ以外には目立った外傷もなく出血もないので、死体から凄惨な印象は受けないが、見続けていると心の温度がどんどん下がっていくような気分に襲われる。惨たらしい死体からは犯人の昏いながらも滾るような激情が表出しているものだが、この死体からはひたすら冷気しか感じられないのだ。(前作 『連続殺人鬼カエル男』 より/第一の被害者・荒尾礼子の場合)

当初、その殺人は無秩序で無差別なものに思われました。ところが、ある規則に気付きます。犯人は明確な意図をもって殺害を繰り返していたのでした。

第一の被害者・荒尾礼子の次に殺されたのが、元中学校校長の指宿仙吉。第三の被害者が、有働真一という少年。そして四人目が、弁護士の衛藤和義という男でした。殺人鬼カエル男は、”五十音順” に人を殺しているのがわかります。

本作 『連続殺人鬼カエル男ふたたび』 で第一の被害者となるのは、松戸市白河町に住む御前崎宗孝という人物でした。「あ」「い」「う」「え」 と続き、その通り、今度は 「お」 で始まる名前の人物が標的となり殺害されたのでした。

- 御前崎宗孝は勝雄を見ると、ひどく驚いた様子だった。
「何と勝雄くんじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだね? こんな時間に」
・・・・・・・
松戸市白河町3丁目の住民が突然の爆発音に眠りを破られたのは、11月16日午前1時15分のことだった。近くに落雷でもあったかと飛び起きた鹿島耕治は、表に出て仰天した。隣の御前崎邸の窓ガラスが破れ、中から黒煙が上がっていたからだ。

鹿島の急報を受けて中央消防署の署員が駆けつけると、既に御前崎邸からの黒煙は収まっていた。ガス漏れの可能性を考慮し、慎重に突入した隊員はその光景を見て腰を抜かした。リビングだったと思われる部屋は、何かの爆発によって家具も床も天井も完膚なきまでに破壊されていた。だが、隊員が腰を抜かした原因は他にあった。

部屋の至るところに肉片と血が散乱していたのだ。百か二百か、あるいはそれ以上の数に粉砕された組織が壁や床にこびりついていた。血肉の赤と脂肪の黄、そして骨片の白が部屋中をカンバスにして極彩色の地獄絵を描いている。(P12.13/第一章 「爆ぜる」 より)

その場のおぞまし過ぎる光景の描写はまだまだ続きます。それより何より、御前崎宗孝は精神科医で 「カエル男連続猟奇殺人事件」 と深く関わっており、当真勝雄とは浅からぬ関係にあった人物でした。

しかし、今になってなぜ当真勝雄は御前崎の前に現れたのか? 粉々になった家の跡からはまた、あの犯行声明文が見つかります。一度は罪を逃れた当真勝雄が、ふたたびカエル男となって現れたのか? 勝雄は何があって御前崎に復讐しようとしたのか?

そう思ううち、更なる事件が起こり、佐藤尚久というプリント配線基板の製造工場に勤める派遣社員の死体が発見されます。そこにもまた声明文が -

こんどは さ からはじめよう〉 とあります。

◆この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「連続殺人鬼カエル男」他多数

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