『テミスの剣』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者

『テミスの剣』中山 七里 文春文庫 2017年3月10日第1刷

テミスの剣 (文春文庫)

昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。
事件から五年後の平成元年の冬。管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが・・・・・・・。中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が 「刑事の鬼」 になるまでの前日譚。『どんでん返しの帝王』 の異名をとる中山七里が、満を持して 「司法制度」 と 「冤罪」 という、大きなテーマに挑む。(「BOOK」データベースより」

おそらく佳境は - 楠木明大に代わり、元錠前技師の迫水二郎が真犯人であると判明した - その後から、である。

右手に剣を、左手には秤を携えた法の女神テミス。
剣は力を意味し、秤は正邪を測る正義を意味している。力なき正義は無力であり、正義なき力は暴力である、といったところか。だがテミス像には剣を掲げたものと秤を掲げたものの二種類が存在する。最高裁のテミス像が右手の剣を高々と掲げているのは、正義よりも力を誇示していることへの痛烈な皮肉なのか。

法の執行者の一人である静は剣の非情さを思い知っていた。テミスが振り下ろす剣には一片の同情も仮借もない。冷厳な刃で唯々咎人を切り刻み、その骸を民衆の前に並べるだけだ。
裁判官室に入って法衣に袖を通すと、静は一つ深呼吸をした。これから自分はテミスの代行者となる。力を代行する限り、剣に刻まれる者の憤怒と怨嗟をも一身に引き受けなければならない。

人を裁くことは同時に自らを裁くことだ。(P89.90)

渡瀬の慟哭。その後の執念と決意。彼はこの先、二度と間違えない。

この本を読んでみてください係数 85/100

テミスの剣 (文春文庫)

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「悪徳の輪舞曲(ロンド)」「連続殺人鬼カエル男」他多

関連記事

『だれかのいとしいひと』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『だれかのいとしいひと』角田 光代 文春文庫 2004年5月10日第一刷 だれかのいとしいひと

記事を読む

『ドクター・デスの遺産』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ドクター・デスの遺産』中山 七里 角川文庫 2020年5月15日4版発行 ドクター・デスの

記事を読む

『綴られる愛人』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『綴られる愛人』井上 荒野 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 綴られる愛人 夫に

記事を読む

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 痺れる (光文社文庫)

記事を読む

『トリップ』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『トリップ』角田 光代 光文社文庫 2007年2月20日初版 トリップ (光文社文庫) 普通

記事を読む

『東京奇譚集』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『東京奇譚集』村上 春樹 新潮社 2005年9月18日発行 東京奇譚集 (新潮文庫) &

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 八月六日上々天氣 (河出

記事を読む

『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 セイレーンの懺悔 (小

記事を読む

『ネメシスの使者』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者

『ネメシスの使者』中山 七里 文春文庫 2020年2月10日第1刷 ネメシスの使者 (文春文

記事を読む

『教団X』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『教団X』中村 文則 集英社文庫 2017年6月30日第一刷 教団X (集英社文庫) 突然自

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版

『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑