『夢を売る男』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『夢を売る男』(百田尚樹), 作家別(は行), 書評(や行), 百田尚樹
『夢を売る男』百田 尚樹 幻冬舎文庫 2015年5月1日初版
『永遠の0 (ゼロ)』 の百田尚樹、大暴走!! 出版界を舞台にした掟破りのブラック・コメディ!
◆あらすじ◆
剛腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦・・・・・・・。
牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは - 。現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。(幻冬舎)
解説に面白いことが書いてあります。その箇所を紹介しましょう。
百田さんが、この小説のモデルにしたと思われるB社については、もう十年ほど前になるが、内部告発があり、記事にすべく取材したことがある。
当時、B社は 「自費出版」 商法で、ぐんぐん伸びていた。柳の下のどじょう狙いは出版界の常で、この商法を真似する出版社が続出、社会問題にもなった。その大半は既にないがB社はその後、商法をソフト化、他の中堅出版社を吸収するなどして今も出版社として生き延びている。B社の商法。
それはこんなものだった。
まず、ハデに全五段の新聞広告を打って、一般の人 (つまり素人) の原稿を募集する。
うたい文句はこうである。
「あなたの原稿を本にしませんか。優秀な編集者が拝見し、原稿を完成、単行本として刊行、全国の書店に並びます。
但し、送っていただいた原稿は編集者が拝見し、A、B、Cのランクに分けます。
(A)、そのまま当社の本として費用はすべて当社もちで出版します。
(B)、ある程度、編集者が手を入れ、単行本として当社から出版します。出版費用は当社と著者であるあなたと折半になります。
(C)、当社の編集者が全面的に書き直した上で、全額、著者負担で出版します」
Cはつまり自費出版である。そして、ここにこの商法のすぐれたカラクリがあるのだが、集まった原稿はほとんどCとランク付けされるのである。
つまり原稿を集めるために、自費出版を 「優秀な編集者がチェックする」 「全国の書店に並ぶ」 という甘い言葉で飾り立てただけなのである。
そして、その自費出版の費用は通常の自費出版の費用より、かなり割高に設定してある。なにしろ 「優秀な編集者がつき」 「全国の書店に並ぶ」 のだから。もちろん 「優秀な編集者がチェック」 などしない。アルバイトの主婦や学生が、マニュアルを見ながら、「構成が弱い」 とか 「文章が粗い」 とか適当な評をつけ、「Cランクだから、費用はもってもらう」 が、「全国の書店に並ぶ」 本を出版しませんかと持ちかける。(花田紀凱 「Will」 編集長)
このB社が小説に登場する新興出版社 「狼煙舎」 とそっくりだと、花田氏は言います。
そして、その 「狼煙舎」 の商法とは、実は牛河原勘治率いる丸栄社をそのままそっくりコピペしたようなやり方で、その上出版にかかる著者の費用を極端に安く設定したものでした。
牛河原は脅威に感じ、同時に強い疑念を抱きます。もしも 「狼煙舎」 の言う通りであったとしたら、出版社の経営は成り立たず、なおかつ「全国の書店に並ぶ」 だけの本が作れるわけがありません。著者に対し、「狼煙舎」 は明らかに嘘を付いています。
では、牛河原が持ちかけるジョイント・プレス方式が、「狼煙舎」 のそれとは違い公明正大で一点の曇りもない、清く正しい商売かといえばそうとも言えません。「狼煙舎」 ほどではないにせよ、丸栄社にも何かしら後ろめたい部分があるにはあるのでした。
しかしながら、それを十分承知しながらも、それでも牛河原には強い信念があります。
彼は、かなりの日本人が、「自分にも生涯に一冊くらいは何か書けるはずだ」 と思っていると、固く信じています。なぜか? 日本語が書けるからです。他に取り柄がなくても、誰でも日本語は書けます。だから自分も本くらい書けると思う。たとえ百万、二百万必要だと言われても、それくらいの金は回収できると思っています。自分が書いた本が、それくらいは売れるだろうと思っています。その夢を実現させてやるのが丸栄社、すなわち自分なのだと - 固くそう信じています。
※途中で読むのをやめないでください。限りなく胡散臭くはありますが、最後の最後、牛河原がただのペテン師ではないというのがわかります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆百田 尚樹
1956年大阪府大阪市生まれ。
同志社大学中退。
作品 「永遠の0」「海賊とよばれた男」「モンスター」「影法師」「フォルトゥナの瞳」「カエルの楽園」「夏の騎士」他多数
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