『ボトルネック』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ボトルネック』米澤 穂信 新潮文庫 2009年10月1日発行


ボトルネック (新潮文庫)

 

【ボトルネック】
瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。
そこから、システム全体の効率を上げる場合の妨げとなる部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。
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米澤穂信の小説は、決して読者を裏切りません。物語の最後には、読み手の想像を超える結末が常に準備されています。話の展開に破綻や飛躍がなく、状況はあくまでも丁寧かつ理詰めに語られて行きます。

城壁の石をひとつずつ積み上げるような一見平板で地味に思える展開でも、辛抱強く読み進めて行くと、著者の当初からの目論見がじわりじわりと明らかになってきます。結論に至る伏線は、何気ない場面にも周到に用意されているのです。
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嵯峨野リョウは高校1年生。12月のある日、彼は福井県の東尋坊を訪れます。恋人の諏訪ノゾミが、誤って転落死した場所です。彼女を弔うために訪ねた現場で、今度はリョウがバランスを崩して崖から転落した・・・、転落したはずだったのです。

なのに、なぜか、意識が戻ったリョウは金沢にいます。怪我ひとつなく、彼が暮らす街に戻っていたのです。訳が分からないままとりあえず自宅に向かうと、そこにはサキと名乗る高校2年生の女の子がいます。サキはこの家の娘だと言いますが、リョウには姉などいません。

一方のサキも、自分には弟などいないと主張します。二人は互いを不審に思いながらも、会話を重ねるうちに、お互いが同じ両親の元で育ち、同じ家に住んでいたことが事実だと分かってくるのでした。リョウは、ますます訳が分からなくなります。

理由は何も分からないのですが、自分が本来いるべき場所とは異なる世界へ迷い込んだことを、認めるしかない状況です。嵯峨野家にはサキという女の子がいて、自分は存在しない世界・・・、時空を超えて、リョウはそんな世界に来てしまったのです。

ここまでがリョウとサキが出会う、物語の発端です。タイムスリップと言えばそうとも言えますし、そんなのは大したことじゃないとも言える微妙な感じです。現実感がないかと言えば全く逆で、リアルに怖いゾッとする話です。先走りせず、じっくり読んでください。

とりあえずリョウが成すべきことは、自分の身に起きたことを解明することでした。嵯峨野家に関するリョウの情報とサキが語る現状は、似て非なるものです。骨格は間違いなく同じですが、細かな点で二人の認識は明らかに食い違っているのです。

序章、それに続く第一章を特にしっかり読んで後半に臨んでください。イチョウの木に纏わるエピソードにも要注意。東尋坊にいるはずのリョウが突如金沢に現れた理由を二人が探る過程で、リョウが知らなかった事実、知り得なかった真実が明らかになって行きます。

恋人だった諏訪ノゾミの素顔、ノゾミの従妹・結城フミカの存在、リョウとサキの共通の兄・ハジメのこと・・・。そう、リョウが東尋坊に行った日は、ハジメの通夜の日でもあったのです。しかしサキのいる世界では、ハジメは人並みに大学生になっているのです。
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米澤穂信のミステリーは、単なる謎解きでは終わりません。読み手が想像する二手三手ぐらい先の結末を準備してくれています。読み終わった皆さんは、しみじみと【ボトルネック】というタイトルに込められた意味を知ることになります。

そして、少なからず恐怖に慄くことでしょう。「自分がいない世界」を想像すること、それはときに痛々しく、限りない無力感に苛まれることにつながり兼ねません。その世界では、理解し分かり合えていると唯一信じた恋人でさえ、まるで人格が違う見知らぬ人になっているかも知れないのです。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


ボトルネック (新潮文庫)

◆米澤 穂信
1978年岐阜県生まれ。
金沢大学文学部卒業。

作品「氷菓」「折れた竜骨」「心あたりのある者は」「インシテミル」「追想五断章」「さよなら妖精」「犬はどこだ」「満願」他多数

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