『十九歳の地図』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『十九歳の地図』中上 健次 河出文庫 2020年1月30日新装新版2刷

十九才の地図 (河出文庫)

「俺は何者でもない、何者かになろうとしているのだ」- 予備校生のノートに記された地図と、そこに書き込まれていくX印。東京で生活する少年の拠り所なき鬱屈を瑞々しい筆致で捉えた青春小説の金字塔 「十九歳の地図」、デビュー作 「一番はじめの出来事」 他 「蝸牛」 「補陀落」 を収録。戦後日本文学を代表する作家の第一作品集。(河出文庫)

今でも私はなぜこの人の本が読みたいと思うのだろう、と考える。日常に狂気が入り交じり、時に狂気が日常を凌駕するような。その精神性に、どこか憧れてでもいるのだろうか。

貧困であること。路地で生きること。理性とは裏腹な、圧倒的な暴力性。隠して生きるなどとは、思いもしなかったのだろう。その覚悟が眩しくて、寄り付けもしなかった。

およそ作家とは思えない不敵な面構え。気に喰わないと容赦なく殴られそうな。容易く心を開いてはくれなさそうな。初めてテレビで見た時、そんな印象を受けました。今から30年以上も前のことです。

[あらすじ]
主人公は、予備校生の住み込み新聞配達員。後の紀州熊野サーガ 物語群 以前の東京を舞台とした未成年の物語であるが、この主人公が、中上作品における最初の地図製作者であることは注目されてよい。

サーガの中心、和歌山県新宮市に同定される路地の地図は、土地所有者の 佐倉や成り上がり者の浜村龍造 にとって、この世界を支配するための必需品であり、またルポルタージュ 紀州 木の国・根の国物語 で中上は、自らの方法をアメリカの作家ウィリアム・フォークナーが、ミシシッピ州ヨクナパトーファ、ジェファスンの地図をつくり、フォークナー所有と記す方法と似ているとも語っている。

本作品での新聞配達員の主人公は、より稚拙にではあるがノートに地図を書き、配達先の気に入らない家にX印を記し、配達台帖から電話番号をアドレス帖にひかえ、憂さ晴らしと言うにはかなり執拗な、公衆電話からの声の脅迫のターゲットとするのだ。(高澤秀次/解説より)

※電話の内容は辛辣で、容赦がありません。あまりに唐突で、相手は何を言われているのか、何があって自分なのかが、皆目見当が付きません。

青年は言うだけ言うと気が済むのか、言うとすぐに電話を切ります。電話を切ると今度は自分が作った 「地図」 に、何個目かのX印を付けます。

この本を読んでみてください係数  85/100

十九才の地図 (河出文庫)

◆中上 健次
1946年和歌山県新宮市生まれ。92年、46歳で没。
和歌山県立新宮高等学校卒業。妻は作家の紀和鏡、長女は作家の中上紀、次女は陶芸家で作家の中上菜穂。

作品 「枯木灘」「鳳仙花」「地の果て至上の時」「紀伊物語」「岬」「十九歳のジェイコブ」「十八歳、海へ」「千年の愉楽」他多数

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