『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『おいしいごはんが食べられますように』高瀬 隼子 講談社 2022年8月5日第8刷

心のざわつきが止まらない。最高に不穏な傑作職場小説!

職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。(講談社)

【第167回芥川賞受賞作】

舞台はラベルパッケージ製作会社の地方支店。入社7年目の男性社員・二谷はある日、後輩の女性社員・押尾にこう持ちかけられる。わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか

周囲に気遣われ大事にされている、はかなげな雰囲気の芦川さん。体が丈夫でないことを考慮され、早退しても、研修に出なくてもとがめられない。皆が彼女を許していることがむかつくのだと、時に頭痛を押して残業する押尾は言う。その言葉にうなずく二谷は、実は芦川さんと付き合っていた。

個人の事情で仕事を免除される社員がいて、その仕事を引き受けざるを得ない社員がいる。どの職場にも存在する善悪で語れない事実を提示しつつ、この小説はそこに というもう一つのテーマを入れ込んでくる。(後略/2022年08月27日 京都新聞 評・北村浩子)

読むと、すぐに気付きます。この小説に登場する誰も彼もが、どこの、どんな職場にだっていることを。

そして、思うはずです。これは、現に今 「自分が働いている職場」 のことではないのかと。読み進めるほどに 「あるある感」 は増し、それはおそらく結末に至るまで続きます。

二谷は、おれだ! 」 と。
押尾は、わたし」 のことだと。
深く頷きながら、「芦川さんみたいな女の人って、いるよねえ・・・・」 と。

そして(おそらく多くの読者が予感する通り) 最終的に “割を食う” のは - 一番仕事ができるであろう - 押尾なわけです。実に理不尽なことではありますが、得てして現実はそんなものです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆高瀬 隼子
1988年愛媛県生まれ。
立命館大学文学部卒業。

作品 2019年 「犬のかたちをしているもの」 で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。著書に 『犬のかたちをしているもの』 『水たまりで息をする』 (ともに集英社) がある。

関連記事

『俺たちは神じゃない/麻布中央病院外科』(中山祐次郎)_書評という名の読書感想文

『俺たちは神じゃない/麻布中央病院外科』中山 祐次郎 新潮文庫 2024年11月25日 6刷

記事を読む

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行 あなたの時間を少しだけ、小説

記事を読む

『嵐のピクニック』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『嵐のピクニック』本谷 有希子 講談社文庫 2015年5月15日第一刷 第7回(2013年)

記事を読む

『綺譚集』(津原泰水)_読むと、嫌でも忘れられなくなります。

『綺譚集』津原 泰水 創元推理文庫 2019年12月13日 4版 散策の途上で出合

記事を読む

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行 過払い金マフィア、マル

記事を読む

『谷崎潤一郎犯罪小説集』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『谷崎潤一郎犯罪小説集』谷崎 潤一郎 集英社文庫 2007年12月20日第一刷 表紙には、艶

記事を読む

『終わりなき夜に生れつく』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『終わりなき夜に生れつく』恩田 陸 文春文庫 2020年1月10日第1刷 はじめに、

記事を読む

『破局』(遠野遥)_書評という名の読書感想文

『破局』遠野 遥 河出書房新社 2020年7月30日初版 第163回芥川賞受賞作

記事を読む

『妖の掟』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『妖の掟』誉田 哲也 文春文庫 2022年12月10日第1刷 ヤクザ×警察×吸血鬼

記事を読む

『おとぎのかけら/新釈西洋童話集』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『おとぎのかけら/新釈西洋童話集』千早 茜 集英社文庫 2013年8月25日第一刷 母親から育児放

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑