『鯨の岬』(河崎秋子)_書評という名の読書感想文

『鯨の岬』河崎 秋子 集英社文庫 2022年6月25日第1刷

札幌の主婦奈津子は、鯨が腐敗爆発する動画を見て臭いを思い出す。後日、釧路の母を訪ねる途中、捕鯨の町にいた幼い頃が蘇ってくる。記憶の扉を開けた彼女は・・・・・・・「鯨の岬」。江戸後期の蝦夷地野付に資源調査のため赴任した平左衛門。死と隣り合わせの過酷な自然の中で、下働きの家族と親しくなり・・・・・・・「東陬遺事」(北海道新聞文学賞受賞作)。命を見つめ喪失と向き合う人々の凄絶な北の大地の物語。全二編。(集英社文庫)

つよく猛々しく、共感を拒絶する思考」 - 桜木紫乃

昭和の中期、「文学の陽は僻地から昇る」 と言った人がいた。
ずいぶんと若い頃に耳にした言葉だが、年を重ねて 「なるほど」 と思うことがあった。
河崎秋子との出会いがそうだ。

初めて会ったのは、2013年だったと記憶している。藤堂志津子さんの声かけで、北海道内の書き手が札幌に集まり会食した日だった。北海道新聞文学賞を受賞されて間もない頃ではなかったろうか。

今でもはっきりと覚えているひとことがある。いったいどんな話の流れでそんな言葉が飛び出したのか、それすらも霞むほどの衝撃だった。

鯨以外の哺乳類はすべて絞めることができます
初対面の挨拶の流れにしてはハードなひとことだったが、返した言葉が人間も?。こちらの質問に彼女は ええ、たぶんと答えたと記憶している。

そのあと彼女は落ち着き払った仕種で、声で、哺乳類を絞める方法を語っていた。
当時の彼女の生業は羊飼いで、生家では牛馬の世話もしているという。いつ原稿を書いているのか、との問いには
牛舎に出る前ですと答えた。

「東陬遺事」 により河崎秋子を見いだした北海道新聞文学賞の選考委員が口を揃えて言うのが 「別格だった」 のひとこと。いま、その選考委員の末席で、次の河崎秋子を探しているのだが、なかなか 「別格」 には出会えないでいる。

解説の冒頭に記したひとことは、道東で文学をこよなく愛し、原田康子著 『挽歌』 をガリ版で世に出した鳥井省三のものだ。出来ることなら、彼に河崎秋子の作品を読んで欲しかった。自身の手で探し、見つけたかったろう普遍を持った才能だ。

出会えたら、どんなに喜んだことだろう。
必ずや 「文学の陽が僻地から昇った」 と言うに違いないのだ。
「見つけたぞ」 と。(解説より)

※「東陬遺事」 の舞台となった 「野付」 という土地を、あなたはご存知だろうか。今は観光名所となった野付半島の - 色のない、墓場のようなあの光景を、見たことがあるだろうか。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆河崎 秋子
1979年北海道別海町生まれ。
北海学園大学経済学部卒業。

作品 「颶風の王」「肉弾」「土に贖う」他

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