『小さい予言者』(浮穴みみ)_書評という名の読書感想文
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『小さい予言者』(浮穴みみ), 作家別(あ行), 書評(た行), 浮穴みみ
『小さい予言者』浮穴 みみ 双葉文庫 2024年7月13日 第1刷発行
表題作 「小さい予言者」 とんでもなくいい作品でした! 教科書に採用してほしいぐらい。時代を越えて読み継がれてほしい。(未来読書研究所共同代表 田口幹人氏)

誰も知らない北海道の物語
歴史時代作家クラブ賞受賞作 『鳳凰の船』、第二作 『楡の墓』 に続く、北海道開拓期を背景に描いた第三作。ゴールド・ラッシュに翻弄された人間の悲哀/「ウタ・ヌプリ」。新天地・樺太への玄関口が静かに見守る親子の情愛/「稚内港北防波堤」。戦争に躍らされた炭鉱の末路とささやかな希望/「小さい予言者」。道内在住の著者がかつてない視点で浮き彫りにした、まったく新しい北海道の歴史の横顔。深い余韻を残す五編を収録。(双葉文庫)
大学を卒業し、大人になって初めて北海道へ行きました。千歳空港 (新千歳空港ではありません) に着くちょっと前、上空から見た函館は (あたりまえですが) 地図で見た函館とまるで同じ形で、そのことにひどく感動したのを覚えています。
道南・道央はもちろんのこと、道東にも道北にも行きました。その大方は仕事としてでしたが、プライベートでも何度か行きました。あの広大な様を、家族にも見せてやりたいと思ったからでした。それからです。北海道出身の作家さんが書いた、北海道を舞台にした小説を好んで読むようになったのは。
[目次]
ウタ・ヌプリ
費府 (フィラデルフィア) 早春
日蝕の島で
稚内港北防波堤
小さい予言者
『小さい予言者』 は、第七回歴史時代作家クラブ賞を受賞した 『鳳凰の船』、そして 『楡の墓』 に続く、明治開拓期以降の北海道を舞台にした北海道開拓史三部作の完結編であり、北海道開拓史に名を刻んだ者たちの想いを、市井の人々を通じて浮かび上がらせた作品集である。
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本書 『小さい予言者』 では、中期から後期の北海道開拓がその後に残した光と影が、第一部、第二部よりも、より市井の人々の営みに寄り添って描かれている。様々な思惑と夢と希望を胸に海を渡った開拓者たちが、各地に蒔いた種は、厳しい環境の中、少しずつ芽を出し、やがて花を咲かせていく。一方で、彼らが渡る前から根付いていた花が踏みつぶされてきたのも事実である。しかし、長い間その地に根を張ってきた花には、めげずに生き抜く意地があるのだ。
三部作すべてに通じるのだが、本書もまた、著者の研ぎ澄まされた豊かな表現力が随所にちりばめられている。地層・本・花・光・防波堤・そして町など、感覚や感情をもとに心に思い浮かべられる景色、いわゆる心象風景の描写が秀逸で、それが自然に自身の記憶や想像とリンクしていく。(解説より)
※解説の田口幹人氏曰く、「著者は 「小さい予言者」 という一篇の大人の童話を描きたかったのではないだろうか」 と。なるほど言われてみればその通り、話はどこか空想じみて、それでもそれを命の糧に生きる力を諦めない少年たちがおり、数十年経った今もその思い出は皆の心に色濃く残り続けているような。そんな話が読みたいときは、ぜひこの本を手にとってみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆浮穴 みみ
1968年北海道旭川市生まれ。
千葉大学文学部文学科仏文専攻卒業。
作品 2008年 「寿限無幼童手跡指南・吉井数馬」 で第30回小説推理新人賞受賞。09年、受賞作を収録した 「吉井堂謎解き暦 姫の竹、月の草」 でデビュー。18年 「鳳凰の船」 で第7回歴史時代作家クラブ賞受賞。つづく 「楡の墓」 「小さい予言者」 が北海道の開拓期を描いた三部作として好評を博す。
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