『ツ、イ、ラ、ク』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ツ、イ、ラ、ク』姫野 カオルコ 角川文庫 2007年2月25日初版

地方。小さな町。閉鎖的なあの空気。班。体育館の裏。制服。渡り廊下。放課後。痛いほどリアルに甦るまっしぐらな日々 - 。給湯室。会議。パーテーション。異動。消し去れない痛みを胸に隠す大人達へ贈る、かつてなかったピュアロマン。 恋とは、「墜ちる」もの。(角川文庫)

恋とは、するものではない。恋とは、落ちるものだ。どさっと穴に落ちるようなものだ。御誠実で御清潔で御立派で御経済力があるからしてみても、あるいは御危険で御多淫で御怠惰で御ルックスが麗しいからしてみても、それは穴に入ってみたのであって、落ちたのではない。

「アッ」。恋に落ちるとは、この「アッ」である。こんなことはめったにないのである。

かりにもこの「アッ」があったとして、それが地方の小さな町の中学校での出来事だったとしたらどうでしょう。落ちてしまった当人が、23歳の新任教師の男性と、わずか14歳の、教え子である女生徒だとしたらどうなのでしょう・・・・

もう十分大人である河村は、隼子のする言動に、あくまで教師として対処しようとします。初めて抱き合ったのはただの偶然で、熱で倒れそうになった彼女を支えた時のことです。ただそれだけ。それ以上でも何でもない。「半ば本気」で、河村はそう思っています。

二度目。「つづきをしようよ」「こないだの」と言う隼子の「こないだ」が、河村には何のことかがわかります。しかしそれはなかったことにしたはずで、続きなどあるはずがない。いったいどういうつもりでいるのかと、彼は隼子の態度を訝ります。

隼子を見た。顔が正面にある。そもそもこの顔がよくない。小馬鹿にしながら誘ってくるような目もよくないが、口はもっとよくない。(中略)たかが中学生がと切り捨てようにも、童顔の貴和子(河村の現在の交際相手)よりずっといやらしい口をして・・・・

※ここで解説(というか、河村が呟く心の声) 友情的なる抱擁。ぜったいに詭弁だが、この理由にするしかない。頬を擦る隼子の髪。顎に触れる耳。首に触れる襟。指のはらが感じるブラジャーの留め金。詭弁だ。

河村は、隼子を抱擁する腕に一層力を込めます。(誘うように開かれた)問題のその口は、もうそこにあります。

その少し後。邪魔に入った一人の女生徒と共に一旦は帰ると見せかけて、隼子は再び河村のいる教室へ戻って来ます。そこでするアンクレットの話(詳細は本編で! )- それはもはや教師と生徒がする他愛ない会話ではなく、ひどく湿った気配を孕んでいます。

河村は思います。

いつも斜にかまえているのが憎たらしい。すこしはオタオタしたらどうだとつい口をついて出た。かなり猥褻なシャレだった。しゃがんだままの姿勢で、女は視線のみを上に向けていた。

腹が立った。こいつは自分を軽んじている。たかが十四歳が。と。

(そしてまた以下のような解説)

生きてゆく人間というものは二十三歳ののちに四十三歳になって知る。二十三歳の自分はなんと若く、熱を帯びていたのだろうかと。しかし、やがて五十三歳になって知る。もし自分が今、四十三歳ならなににでも新たな挑戦ができたのにと。そして六十三歳になり、さらに知る。五十三歳の自分は、三十三歳と変わらぬほどに、なんと若かったのだろうと。

その数時間後。(これより前にすでにそうではあったのですが) 二人は遂に、具体的な行為をもって、愛に「墜ち」ます。それはそれは深い穴へと、二人して落ちてゆくことになります。
・・・・・・・・・
話すのももどかしく、彼らはヤッた。服を脱ぐのさえもどかしく、彼らは犯った。ヤッて犯ってヤッて犯ってヤッテて犯って・・・・、生理中でさえコンドームを必要としない機会とみなしてヤッって犯った。ヤッて犯ってヤッテて犯って・・・・

延々と続くその場面を前に、小山内先生という、美人で、驚異的に若く見え、生徒の誰もに絶大な人気を誇る、おそらくは五十歳半ばくらいの女先生が登場します。

なるべくして教師になったようなこの小山内先生だけが、すべてを理解しています。彼女の半生を知るうちに、秘められた本性の果てしのなさを垣間見るような気分になります。そこいらにある卑猥さとは違い、それこそが〈ピュアロマン〉なのだと。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆姫野 カオルコ
1958年滋賀県甲賀市生まれ。
青山学院大学文学部日本文学科卒業。

作品 「ひと呼んでミツコ」「受難」「整形美女」「ハルカ・エイティ」「リアル・シンデレラ」「昭和の犬」「純喫茶」「部長と池袋」他多数

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