『アルテーミスの采配』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『アルテーミスの采配』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(あ行), 真梨幸子

『アルテーミスの采配』真梨 幸子 幻冬舎文庫 2018年2月10日初版

出版社で働く派遣社員の倉本渚は、ある日AV女優連続不審死事件の容疑者が遺したルポ「アルテーミスの采配」を手にする。原稿は “僕は犯人ではない。本当の黒幕は” という告白の途中で終わっていた。好奇心のあまり調査を始める渚だったが、やがて原稿に張り巡らされた罠に気付く - 。一項目から無数の罠が読者を襲う、怒涛の一気読みミステリ。(幻冬舎文庫)

相変わらずの手の込みようです。最初、だからか話がよく見えません。AV嬢のする告白がどこに繋がっていくのか。彼女らの素性を炙り出し、これみよがしに記事にしようと企む裏側に、実はそれとは違う、別の “思惑” が潜んでいます。

言わずもがなですが、この人が書く話には容赦がありません。怨みつらみについての果てがない。まるで違う様子で近づいては、知らない内に貶める。気付いた時にはもうどうしようもない。あとは言いなりに、死を待つばかりの身となります。

アルテーミスとは、ギリシャ神話に登場する狩猟の女神、あるいは純潔を司る処女神。妊婦の守護神でもあるが、一方、突然の死をもたらす疫病の弓矢を持ち、生を与えながら、生を奪う。男女の性愛を嫌悪し、特に男性の性的な欲望に対して激しい怒りを持つ、残虐の女神のことをいいます。

では、この物語における疫病の弓矢とは何なのでしょう? - 読むと、それが徐々に明らかになってゆきます。

生を与えながら、生を奪うとは

ここで、あなたに質問です。  AV女優になるきっかけで一番多いのはなんだと思いますか? お金? それとも、自己表現? あるいは、単純にセックスが好きだったから?

(余計なことですが、もしもあなたがAV嬢であったとしたら、あなたはそれを極力隠そうとするはずです。偽名を使い、経歴を詐称し、容姿の一部を整形したりするかもしれません。)

次に、あなたがAV女優になったことで被るアクシデントにはどういったものが考えられるでしょう? 自分のことに限らず、他に何が予想されるかを想像してみてください。

(おそらくはそのほとんどが) なりたくてなったわけではない上に、さらに思いもしない事態が待ち受けている。- 幾人ものAV女優の、ここにはそれが書いてあります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。

作品 「孤虫症」「えんじ色心中」「殺人鬼フジコの衝動」「お引っ越し」「女ともだち」「あの女」「みんな邪魔」「人生相談」他多数

関連記事

『いのちの姿/完全版』(宮本輝)_書評という名の読書感想文

『いのちの姿/完全版』宮本 輝 集英社文庫 2017年10月25日第一刷 自分には血のつながった兄

記事を読む

『ブータン、これでいいのだ』(御手洗瑞子)_書評という名の読書感想文

『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子 新潮文庫 2016年6月1日発行 クリーニングに出し

記事を読む

『猫を棄てる』(村上春樹)_父親について語るとき

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上 春樹 文藝春秋 2020年4月25日第1刷

記事を読む

『凍てつく太陽』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『凍てつく太陽』葉真中 顕 幻冬舎 2019年1月31日第2版 昭和二十年 - 終

記事を読む

『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷 [集英社文庫45

記事を読む

『蟻の棲み家』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『蟻の棲み家』望月 諒子 新潮文庫 2021年11月1日発行 誰にも愛されない女が

記事を読む

『腐葉土』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『腐葉土』望月 諒子 集英社文庫 2022年7月12日第6刷 『蟻の棲み家』(新潮

記事を読む

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月20日発行 差別、偏見、思

記事を読む

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文

『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 今どき流

記事を読む

『すべての男は消耗品である』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『すべての男は消耗品である』村上 龍 KKベストセラーズ 1987年8月1日初版 1987年と

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑