『今だけのあの子』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『今だけのあの子』(芦沢央), 作家別(あ行), 書評(あ行), 芦沢央
『今だけのあの子』芦沢 央 創元推理文庫 2018年7月13日6版
結婚おめでとう、メッセージカードを書く手が震える。大学時代、新婦とは一番の親友だった。けれど恵には招待状が届いていない。たった六人しかいない同じグループの女子の中で、どうして私だけ線引きされたのか。呼ばれてもいない結婚式に出席しようとする恵の運命、そして新婦の真意とは (「届かない招待状」)。進学、就職、結婚、出産、女性はライフステージが変わることでつき合う相手も変わる。「あの子は私の友達? 」 心の裡にふと芽生えた嫉妬や違和感が積み重なり友情は不信感へと形を変えた。めんどうで愛すべき女の友情に潜む秘密が明かされたとき、驚くべき真相と人間の素顔が浮かび上がる傑作ミステリ短篇集全五篇。(創元推理文庫)
「届かない招待状」
グループの中で一番仲の良かった彩音から、なぜか、恵にだけ結婚式の招待状が届かない。それでも、敢えて恵は、呼ばれてもいない式に出席しようと決意する。なぜなら、恵には招待してはもらえない、たったひとつの心当たりがあったのだ。
「帰らない理由」
交通事故で亡くなったくるみの部屋を訪れた中学の同級生 - 「恋人」の須山と、「親友」の桐子。母親が見てやってほしいというくるみの日記が気になって仕方ない須山に対し、桐子は、断じて読むべきではないと主張する。互いを牽制し、二人はいつまで経っても帰れない。
「答えない子ども」
娘をきちんと育てている自負を持つ直香は、娘の絵の教室で一緒になる「ソウくんのママ」のズボラさを軽蔑していた。ある日、ソウくん宅に寄り帰宅したあと、娘の絵がなくなっていることに気づく。直香には、(状況的に)ソウくんが盗ったとしか思えない・・・・・・・
「願わない少女」
物語の冒頭は奈央が悠子を部屋に監禁する場面 - 何が起きているのか、さっぱりわからない。そこから時間を遡り、二人の出会いが描かれる。孤独な奈央は、悠子と友達になりたいばかりに、ずっと友達でいようとするあまり、自分本位の嘘を付く。
「正しくない言葉」
老人ホームで暮らす澄江は、隣室の入居者・孝子のもとに家族が頻繁に訪れることを羨ましく思っていた。ところがある日、孝子に対しての不満を、嫁の麻実子が夫にぶつけているところを目撃する。麻実子の話を聞いた澄江は、ふと、あることに気づく・・・・・・・。
(以上は解説にある中から抜き出して「あらすじの最初」の部分だけを紹介しています。尚、これより後はネタバレになりますのであしからず)
この小説は、女性にとっての「その時々に知り合った」、同じ女性との「友情」を描いた物語です。「今だけのあの子」とは、人生における折々の場面での、今でしか知り合えない、かけがえのない「人」のことを指しています。
ミステリーと見せかけて、実は、凶悪な出来事や後味の悪さといったものは一切ありません。この人らしくなく、みごとハッピーエンドで幕を閉じます。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆芦沢 央
1984年東京都生まれ。
千葉大学文学部史学科卒業。
作品 「悪いものが、来ませんように」「罪の余白」「いつかの人質」「許されようとは思いません」など
関連記事
-
『1R 1分34秒』(町屋良平)_書評という名の読書感想文
『1R 1分34秒』町屋 良平 新潮社 2019年1月30日発行 デビュー戦を初回
-
『平場の月』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『平場の月』朝倉 かすみ 光文社 2018年12月20日初版 五十歳の再会 『平
-
『貘の耳たぶ』(芦沢央)_取り替えた、母。取り替えられた、母。
『貘の耳たぶ』芦沢 央 幻冬舎文庫 2020年2月10日初版 あの子は、私の子だ。
-
『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”
『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版
-
『送り火』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文
『送り火』高橋 弘希 文藝春秋 2018年7月25日第一刷 春休み、東京から山間の町に引っ越した中
-
『貴婦人Aの蘇生』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『貴婦人Aの蘇生』小川 洋子 朝日文庫 2005年12月30日第一刷 北極グマの剥製に顔をつっこん
-
『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文
『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日新聞出版 2024年1月15日
-
『夜明けの縁をさ迷う人々』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『夜明けの縁をさ迷う人々』小川 洋子 角川文庫 2010年6月25日初版 私にとっては、ちょっと
-
『幾千の夜、昨日の月』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『幾千の夜、昨日の月』角田 光代 角川文庫 2015年1月25日初版 新聞で文庫の新刊が出る
-
『ようこそ、わが家へ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文
『ようこそ、わが家へ』池井戸 潤 小学館文庫 2013年7月10日初版 この本は半沢ブームの