『深い河/ディープ・リバー 新装版』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『深い河/ディープ・リバー 新装版』(遠藤周作), 作家別(あ行), 書評(は行), 遠藤周作
『深い河/ディープ・リバー 新装版』遠藤 周作 講談社文庫 2021年5月14日第1刷

喪失感をそれぞれに抱え、インドへの旅をともにする人々。生と死、善と悪が共存する混沌とした世界で、生きるもののすべてを受け止め包み込み、母なる河ガンジスは流れていく。本当の愛。それぞれの信じる神。生きること、生かされていることの意味。読む者の心に深く問いかける、第35回毎日芸術賞受賞作。(講談社文庫)
この小説は平成5年 (1993年)、遠藤周作70歳の作品です。闘病中の著者が渾身の力を絞って書き上げた、死生観、宗教観に問いかける名著と呼ばれています。
この作品に登場する人びとは、それぞれの人生に刻み込まれている痕跡を背負って、そこに痕跡を残したものを探すために日本から印度のガンジス河までの旅に出かける。磯辺は、「人生の同伴者」 であった妻が残した言葉を忘れることができず、印度のある少女が日本人から転生したという手紙を読んで、その少女を探しにいく。息を引きとる間際に、妻は声を振り絞りながら磯辺に言ったのである。「わたくし・・・・・・・必ず・・・・・・・生まれかわるから、この世界の何処かに。探して・・・・・・・わたくしを見つけて・・・・・・・約束よ、約束よ」
木口は、戦争中密林で悲惨に死んだ戦友や敵軍の冥福を祈る法要をいとなむために印度に行く。童話作家の沼田は、印度の野鳥保護地区に行く。彼は、肺を患い長い間入院した。その彼のために、妻はどこかで九官鳥を買ってきて病室においてくれた。誰もいない夜の病室で、沼田はその鳥を相手に自分の苦しみや悩みを打ち明けたこともある。執刀医さえためらうほどの大手術が運よく成功したその日、その九官鳥は死んだ。まるで自分の代わりに死んだようで、心が痛む。
そして、成瀬美津子がいる。彼女は、大学時代に自分が愚弄してから棄てた、大津という名の男のことを憶えている。彼は今カトリック教会の司祭となって印度にいるらしい。行きずりに過ぎなかったあのバカバカしい男が、なぜか心に残っていた。美津子は、フランスに新婚旅行をしたときも、なぜか彼のもとを訪れた。リヨンの修道院で会った彼の口から出てくる 「神」 という言葉を嫌がる美津子に、大津は笑いながら言う。「その言葉が嫌なら、他の名に変えてもいいんです。トマトでもいい、玉ねぎでもいい」 (解説より)
遠藤周作が終生問い続けた小説の主題とは、「日本の精神的風土と西洋のキリスト教の間の “距離感” を如何に扱うべきか」 ということでした。彼は幼い頃に洗礼を受け、否応なく 「キリスト教」 と対峙することになります。それが彼の運命でした。
大津は印度に行き、社会から棄てられガンジス河沿いで死を待つ人々のために働く。しかも、ヒンドゥー教徒のような服装をして。やがて彼に会った美津子が不思議そうに訊く。なぜキリスト教徒のあなたがここでこのようなことをしているのか、と。大津は答えた。「玉ねぎがこの町に寄られたら、彼こそ行き倒れを背中に背負って火葬場に行かれたと思うんです。ちょうど生きている時、彼が十字架を背にのせて運んだように」。大津の顔には吹出のようなものもできていた。かつて聖フランチェスコの体に現れたというキリストの 「聖痕」 のように。大津が追いかけてきた 「玉ねぎ」 が、いつの間にか彼の体に痕跡としてあらわれたのであろう。(金承哲/同上解説より)
※もしも・・・・・・・、もしも私が、例えば天草地方の小さな島の生まれだったとしたら。近くに教会があり、周囲の多くが信者の家で、休みの日には決まって家族総出で礼拝に行くような環境であったとしたら - どうでしょう? 私は大津のような信仰を持つことができたでしょうか。詮無いことではありますが、そんなことを考えました。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆遠藤 周作
1923年東京生まれ。96年、病没。
慶應義塾大学仏文科卒業。
作品 「白い人」「海と毒薬」「沈黙」「イエスの生涯」「侍」「スキャンダル」他多数
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