『フェルメールの憂鬱 大絵画展』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『フェルメールの憂鬱 大絵画展』望月 諒子 光文社文庫 2018年11月20日初版1刷

フェルメール、ブリューゲル、レンブラント。名画をめぐる騙しあいが始まる!
ベルギーの小さな村の教会から、壁に掛けられていた絵がなくなった。この絵が実はブリューゲルの作品だと聞いていた牧師は、取り戻さなければならないと、知り合いに助けを求める。一方、スイスにある屋敷の屋根裏から、フェルメールの作品が見つかった。メトロポリタン美術館からは、フェルメールの絵が強奪された。名画は一体どこへ? 騙し合いが始まった! (光文社文庫)

物語には、天才的な詐欺師にCIAの捜査官、美術の国際的コンサルタントなどと併せ、舞台が日本に移ると、如何にも怪しげな新興宗教の女教祖を中心に、そこに絡んで画商や弁護士、元信者などが登場します。騙し騙され、今本の中で起こっていることが嘘か本当か、すぐにはわからなくなります。

人口15万人。その世界最大都市アントウェルペンを有したのが、当時スペイン領だったネーデルラントである。
栄華を誇るネーデルラントは北方ルネサンスともフランドル絵画とも呼ばれる、絵画芸術の一時代を築いていく。1672年、フランスがオランダを侵略するまで、ヴァン・エイク、ブリューゲル、ルーベンス、レンブラントなどの画家が誕生した。

神聖ローマ帝国の流れを汲むネーデルラントは、ヨーロッパ文化の根幹を成した地ともいえる。
中世ヨーロッパの成り立ちのころから国名を変え、栄華と闘争の立てる土埃にまみれたネーデルラント地域はいま、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの三国に分かれて一時の安穏を得ている。
そのベルギーの西、フランスとの国境付近の西フランドル州にワトウという村がある。


村の中心には広場があり、広場には教会がある。
村は100年前に比べて人口は半分になった。牧師のトマス・キャンベルはフランドルとは無縁のアメリカ人だが、人懐っこい地域だから温かく迎え入れられた。

彼がこの村の牧師になったのは、前任者、ルクー牧師から頼まれたからだ。
この村の牧師になって8年になる。
実はこの教会には秘密がある。
それは村人も知らないことだ。

あの教会は古い
絵も古い

一番目だたない壁、あっただろ
日が当たらない北の壁ですか?
違うよ。東の壁だよ
あそこに古い絵が掛かっていただろ。1メートル、1.6メートルぐらいの。黒ずんだ、古い板絵だ

板絵というのは文字通り板に描かれた絵のことだ。そういうのは400年は前のものだ。
あの絵はな、明るいところに出しちゃいけない。それから、洗っても、埃を払ってもいけない。人前で光を当ててはいけないんだ。拭いたりしたらいけない。カーテンの位置も、触らないほうがいい

いいか。こういうことだ。村人以外の人の出入りが多そうな日には、ねずみ色の布を掛けるんだ。何かを修復していますって体で
キャンベル牧師は、お行儀のいい犬のように、話の続きを待った。ルクー牧師は唐突に、言った。
ブリューゲルの絵だからだ。そして、だれもそのことに気がついていないからだ

この、ブリューゲルの絵こそが発端でした。物語は、おそろしく込み入った、それ故 (その時代の西洋ではいかにもありそうな) 至極尤もらしいプロローグで幕を開けます。最初、小さな村の教会にあった一枚の絵から始まる騒動は、幾多の策謀や企みを経て、やがて舞台を日本へ移すことになります。

そうやって、すっかり村に溶け込んだ8年目のある日の朝。
いつものように聖堂のドアを開けたキャンベル牧師は、いつものように床の掃除をしようと箒を取りに奧まで行き、ろうそく立てがなくなっていることに気がついた。そして戻って来るときにはっとした。

色の違う壁があったのだ。
1メートル、1.6メートル角の、生白い壁。

牧師は壁を見つめてああ、なんてことだと呟いた。
壁から、絵が消えていた。(太字は全て本文より抜粋しています)

※事を主導するのは天才的な詐欺師のイアン・ノースウィッグという人物で、イアンとキャンベルは古くからの友人で、キャンベルがイアンに対し 「ブリューゲルの絵を取り戻してほしい」 と泣きついたのでした。すべてはここから始まっていきます。そして、その

数日後、一本のニュースが配信されます。17世紀を代表するオランダ人画家ヨハネス・フェルメールの、新たな真作がスイスで発見されたというニュースでした。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。

作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「哄う北斎」「蟻の棲み家」「殺人者」「呪い人形」他

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