『フェルメールの憂鬱 大絵画展』(望月諒子)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/06
『フェルメールの憂鬱 大絵画展』(望月諒子), 作家別(ま行), 書評(は行), 望月諒子
『フェルメールの憂鬱 大絵画展』望月 諒子 光文社文庫 2018年11月20日初版1刷

フェルメール、ブリューゲル、レンブラント。名画をめぐる騙しあいが始まる!
ベルギーの小さな村の教会から、壁に掛けられていた絵がなくなった。この絵が実はブリューゲルの作品だと聞いていた牧師は、取り戻さなければならないと、知り合いに助けを求める。一方、スイスにある屋敷の屋根裏から、フェルメールの作品が見つかった。メトロポリタン美術館からは、フェルメールの絵が強奪された。名画は一体どこへ? 騙し合いが始まった! (光文社文庫)
物語には、天才的な詐欺師にCIAの捜査官、美術の国際的コンサルタントなどと併せ、舞台が日本に移ると、如何にも怪しげな新興宗教の女教祖を中心に、そこに絡んで画商や弁護士、元信者などが登場します。騙し騙され、今本の中で起こっていることが嘘か本当か、すぐにはわからなくなります。
人口15万人。その世界最大都市アントウェルペンを有したのが、当時スペイン領だったネーデルラントである。
栄華を誇るネーデルラントは北方ルネサンスともフランドル絵画とも呼ばれる、絵画芸術の一時代を築いていく。1672年、フランスがオランダを侵略するまで、ヴァン・エイク、ブリューゲル、ルーベンス、レンブラントなどの画家が誕生した。
神聖ローマ帝国の流れを汲むネーデルラントは、ヨーロッパ文化の根幹を成した地ともいえる。
中世ヨーロッパの成り立ちのころから国名を変え、栄華と闘争の立てる土埃にまみれたネーデルラント地域はいま、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの三国に分かれて一時の安穏を得ている。
そのベルギーの西、フランスとの国境付近の西フランドル州にワトウという村がある。
*
村の中心には広場があり、広場には教会がある。
村は100年前に比べて人口は半分になった。牧師のトマス・キャンベルはフランドルとは無縁のアメリカ人だが、人懐っこい地域だから温かく迎え入れられた。
彼がこの村の牧師になったのは、前任者、ルクー牧師から頼まれたからだ。
この村の牧師になって8年になる。
実はこの教会には秘密がある。
それは村人も知らないことだ。
「あの教会は古い」
「絵も古い」
「一番目だたない壁、あっただろ」
「日が当たらない北の壁ですか? 」
「違うよ。東の壁だよ」
「あそこに古い絵が掛かっていただろ。1メートル、1.6メートルぐらいの。黒ずんだ、古い板絵だ」
板絵というのは文字通り板に描かれた絵のことだ。そういうのは400年は前のものだ。
「あの絵はな、明るいところに出しちゃいけない。それから、洗っても、埃を払ってもいけない。人前で光を当ててはいけないんだ。拭いたりしたらいけない。カーテンの位置も、触らないほうがいい」
「いいか。こういうことだ。村人以外の人の出入りが多そうな日には、ねずみ色の布を掛けるんだ。何かを修復していますって体で」
キャンベル牧師は、お行儀のいい犬のように、話の続きを待った。ルクー牧師は唐突に、言った。
「ブリューゲルの絵だからだ。そして、だれもそのことに気がついていないからだ」
*
この、ブリューゲルの絵こそが発端でした。物語は、おそろしく込み入った、それ故 (その時代の西洋ではいかにもありそうな) 至極尤もらしいプロローグで幕を開けます。最初、小さな村の教会にあった一枚の絵から始まる騒動は、幾多の策謀や企みを経て、やがて舞台を日本へ移すことになります。
*
そうやって、すっかり村に溶け込んだ8年目のある日の朝。
いつものように聖堂のドアを開けたキャンベル牧師は、いつものように床の掃除をしようと箒を取りに奧まで行き、ろうそく立てがなくなっていることに気がついた。そして戻って来るときにはっとした。
色の違う壁があったのだ。
1メートル、1.6メートル角の、生白い壁。
牧師は壁を見つめて 「ああ、なんてことだ」 と呟いた。
壁から、絵が消えていた。(太字は全て本文より抜粋しています)
※事を主導するのは天才的な詐欺師のイアン・ノースウィッグという人物で、イアンとキャンベルは古くからの友人で、キャンベルがイアンに対し 「ブリューゲルの絵を取り戻してほしい」 と泣きついたのでした。すべてはここから始まっていきます。そして、その
数日後、一本のニュースが配信されます。17世紀を代表するオランダ人画家ヨハネス・フェルメールの、新たな真作がスイスで発見されたというニュースでした。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。
作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「哄う北斎」「蟻の棲み家」「殺人者」「呪い人形」他
関連記事
-
-
『完璧な母親』(まさきとしか)_今どうしても読んで欲しい作家NO.1
『完璧な母親』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年3月30日10刷 「八日目の蝉
-
-
『爆弾』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文
『爆弾』呉 勝浩 講談社 2023年2月22日第8刷発行 爆発 大ヒット中! 第16
-
-
『神の手』(望月諒子)_書評という名の読書感想文
『神の手』望月 諒子 集英社文庫 2022年7月12日第8刷 『蟻の棲み家』(新潮
-
-
『たった、それだけ』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文
『たった、それだけ』宮下 奈都 双葉文庫 2017年1月15日第一刷 「逃げ切って」。贈賄の罪が発
-
-
『フォルトゥナの瞳』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文
『フォルトゥナの瞳』百田 尚樹 新潮文庫 2015年12月1日発行 幼い頃に家族を火事で失い天涯孤
-
-
『殺人出産』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
『殺人出産』村田 沙耶香 講談社文庫 2016年8月10日第一刷 今から百年前、殺人は悪だった。1
-
-
『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文
『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行 連綿と続く女たちの 「鎖」
-
-
『家族の言い訳』(森浩美)_書評という名の読書感想文
『家族の言い訳』森 浩美 双葉文庫 2018年12月17日36刷 帯に大きく - 上
-
-
『晩夏光』(池田久輝)_書評という名の読書感想文
『晩夏光』池田 久輝 ハルキ文庫 2018年7月18日第一刷 香港。この地には、観光客を標的に窃盗
-
-
『野火の夜/木部美智子シリーズ』(望月諒子)_書評という名の読書感想文
『野火の夜/木部美智子シリーズ』望月 諒子 新潮文庫 2025年10月1日 発行 推理小説史
















