『インビジブル』(坂上泉)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『インビジブル』(坂上泉), 作家別(さ行), 坂上泉, 書評(あ行)
『インビジブル』坂上 泉 文春文庫 2023年7月10日第1刷

第23回大藪春彦賞 第74回日本推理作家協会賞 W受賞!
凶々しき猟奇殺人犯 VS はみだし刑事バディ 120%一気読みのエンタメ最前線!! 圧巻の戦後ノワール ✕ 捜査ミステリ
昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が頭に麻袋を被せられた刺殺体となって見つかった。初めての殺人事件捜査に意気込む大阪市警視庁の新城は、帝大卒のエリート守屋と組むことに。全てが正反対の二人は衝突を繰り返しながら、戦後大阪に広がる巨大な闇に迫る。大藪賞・推協賞W受賞、圧巻の本格警察ミステリ。解説・門井慶喜 (文春文庫)
※インビジブル:見えない;気づかれない、目につかない
時の背景、事の発端をさらに詳しく紹介しましょう。
まだまだ敗戦の色濃い昭和二十九年 (一九五四) 五月、大阪で殺人事件が発生した。現場は大阪城東部、旧造兵廠跡の国有地ということになっているが、実際には不法占拠のバラックのならぶ盛り場と、在日朝鮮人の集落とのあいだの草むらの空き地、いわゆる 「三十八度線」 で、堅気の足を踏み入れるところではない。
殺されたのは衆議院議員・北野正剛の秘書である宮益義雄、四十三歳。背広を着て、靴をはいたまま仰向けに倒れていたが、頭部には 「中央卸売市場」 の字の印された麻袋がかぶせられていた。大豆や穀物を入れるドンゴロスだ。死因は左腹部および左前胸部への複数の刺傷による失血か。
現場へ最初に到着し、そのまま事件を担当することになったのは主人公、新城洋巡査である。大阪市警視庁東警察署刑事課一係所属。刑事になってはじめて出会う殺人事件だった・・・・・・・と、本作 『インビジブル』 ではこの肩書きが重要だ。大阪なのに警視庁? 警視庁って東京の組織じゃなかったっけ。
じつを言うと - 私も本書を読んで知ったのだが - この当時、大阪市警視庁はほんとうに存在した。こんにちの大阪府警の前身のひとつであるが、よりいっそう正確な説明のためには戦前の制度を参照しなければならない。戦前のいわゆる明治憲法下では警察というのはすべて国家に属していて、長官はもとより一巡査にいたるまで国家公務員だった。
(敗戦後、日本を占領した連合国最高司令部 (GHQ) は、この組織のありかたを問題視し、警察を国と地方の二本立てとしました。市および人口五千人以上の町村には市町村警察を、それとは別に、それ以外の田舎や僻地をカバーしかつ広域犯罪に対応するため、各都道府県に国家警察を置いたのでした)
略して前者を 「自治警」 といい、後者を 「国警」 という。すなわち大阪市警視庁とは千六百軒 (市町村警察=自治体警察の総数)のほうの一軒、大阪市だけを管轄する自治警なので、そこに属する新城がこの事件を担当するのは当然だった。
(新米刑事の新城にとって、それは初めて担当する事件らしい事件でした。新しい民主的な日本では地方のことは地方がやる。もはや国家が偉そうに上から何かを押しつける時代は去ったのだ・・・・・・・と、彼なりの矜持をもって、意気込んでもいたのでした。ところが - )
「新城、お前は守屋警部補と組め」
守屋とは守屋恒成、国家地方警察大阪府本部警備部警備二課所属。つまり国警の手先にほかならず、しかも東京出身、東京帝国大学卒、高等文官試験合格、これだけでも大阪生まれで中卒の新城にとっては理解の埒外にあるのに加えて、守屋は性格も冷淡だった。最初に現場へ向かうとき、新城はいちおう気を使って話しかけるのだが、(中略) にべもない返事ばかり。まことに 「好きになれる要素など何ひとつない」、最悪の出発にほかならなかった。(解説より by 門井慶喜)
※もちろんのこと、物語の主題は政治家秘書に続く連続殺人の犯人は誰かということですが、背景には戦中戦後の混乱や、今まさに変わりつつある新しい時代への期待や不安が綯い交ぜになり、一課員である新城の胸にも熱い空気が流れ込んでいるのを感じます。そして、最初受け入れがたく感じた守屋の胸にも、新城と同様に、熱く激しいうねりが渦巻いているのに気づきます。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆坂上 泉
1990年兵庫県生まれ。
東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻。
作品 「へぼ侍」「渚の螢火」
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Comment
こんにちは。
自分も「インビジブル」読みましたよ。
重厚で骨太な内容だったと思います。
そのうえ最後まで飽きることがありませんでしたよ。
神崎さま
早速のコメント、ありがとうございます。
読み応えがあり、また一冊、良い本に巡り合えたとよろこんでいます。
たくさんの人に読んでほしいですね。
お礼まで。
たくさんの人に読んでほしい、というお気持ちわかりますよ。