『黒い糸』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『黒い糸』染井 為人 角川文庫 2025年8月25日 初版発行

シングルマザー 天才少女 執着系クレーマー 小学校教師 ・・・ 化け物は誰だ? 『悪い夏著者が暴くタブーと不条理 - 戦慄のダークサスペンス

誘拐された児童、悪質な嫌がらせを続ける不気味な女 - 教室を取り巻く違和感は、やがて驚愕の真実に繋がる。

結婚相談所に勤めるシングルマザーの亜紀は、クレーマー会員とトラブルを起こして以来悪質な嫌がらせに苦しんでいた。さらに、息子が通う小学校ではクラスメイトが誘拐される。担任の祐介は対応に追われる中、クラスの秀才・莉世から推理を聞かされる - 「あの女ならやりかねない」。その後莉世も何者かに襲われ意識不明に。亜紀と祐介を追い詰める異常犯罪。“化け物“ は一体誰なのか? 『悪い夏』 の鬼才が仕掛ける戦慄サスペンス。(角川文庫)

正しくは 「ダークサスペンス」 & 「ホラー」 の方がより内容に近いのではないかと。特に後半、結末付近の状況にあなたはきっと肝を冷やすに違いありません。信じられないけれど 「なくはない」 と、思うとなおさら怖くなります。

物語にまず登場する主人公=視点人物は、結婚相談所のアドバイザーとして働く平山亜紀だ。「マッチングアプリ」 のブームを背景に、若者の間で結婚相談所の利用が見直され、結婚相談所の入会者数が倍増していることは現実でもよく知られている。ならばそこでは、トラブルの数も増えている、はず。「いま・ここ」 を見つめ続ける、染井為人らしい舞台選びと言える。

冒頭のシーンが素晴らしい。母親の騙し討ち作戦で亜紀と引き合わされ、怒号をあげる四七歳の息子が、女性のプロフィールが載った分厚いバインダーをしぶしぶめくる。あえて選ぶならこの人かな・・・・・と指差したのは、あからさまに高嶺の花だ。「健康体の女性なら、それで十分」 と言っていたはずの母は、その女性のプロフィールの一文に難色を示す。すると息子は、「そんな詳しく見てねえもんよ」。ついさっき 「よけいなことをすんじゃねえっ」 と叫んでいた男の豹変っぷり、母に対する甘えっぷりが、「ねえもんよ」 という語尾で見事に表現されている。その人らしさは細部に宿る、と実感させるオープニングだ。

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物語は亜紀と祐介、ふたりの視点をスイッチしながら進んでいく。担任と児童の保護者という関係上、ふたりは早い段階で顔を合わせることとなるが、ふたりの運命が真に交錯するのは最終盤だ。その時、何が起こるのか。序盤から最終盤まで積み上げられてきた幾つもの予感がそこに至り、最悪のかたちで実現するとだけ記しておきたい。(解説より)

登場する数多くの人物の大方が、なぜか、亜紀もしくは祐介に背負い切れないほどの災いをもたらし、止むことがありません。

亜紀は執拗に付き纏われ、祐介はいわれのない中傷を浴び、ふたりは命の危険にさえ晒されることになります。理由はわからず、繰り返し見舞われる災厄になす術がありません。

※染井作品にはハズレがありません。もしもまだなら、あなたの愛読書にぜひ加えてください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 「悪い夏」「正体」「正義の申し子」「震える天秤」「滅茶苦茶」「鎮魂」「海神」 など

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