『村に火をつけ、白痴になれ/伊藤野枝伝』(栗原康)_書評という名の読書感想文

『村に火をつけ、白痴になれ/伊藤野枝伝』栗原 康 岩波現代文庫 2024年7月16日 第6刷発行 

ああ、習俗打破! 習俗打破! 」 100年前のアナキスト、伊藤野枝の生涯を体当たりで描き旋風を巻き起こした、爆裂評伝!

女性を縛る結婚制度や社会道徳と対決し、貧乏に徹しわがままに生きたアナキスト、伊藤野枝。パートナーの大杉栄や甥とともに国家に惨殺されるまでの二十八年の生涯に、ほとばしる情熱、躍動する文体で迫る。「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」。百年前を疾走した野枝が、現代の閉塞を打ち破る! 解説=ブレイディみかこ (岩波現代文庫)

強烈なタイトルと、いかにも意志が固そうな目をした若い女性の表紙に惹かれて買いました。「伊藤野枝伝」 とあります。

ずいぶん昔の話であろうことはわかります。あなたは、表紙に写る伊藤野枝 (いとうのえ) という女性のことをご存じでしょうか? いつの時代に何をした人なのか、私は何も知らずに手に取りました。書いた栗原康という人も初めてで、頼みとするのは、久しぶりの 「岩波書店」 の本だということだけでした。

ダブル・マーマイトの爆裂本
村に火をつけ、白痴になれ。・・・・・・・村落に放火するだけでも大変なことなのに、そのうえ白痴になれとは何事か。これでもかと言わんばかりのダブルパンチで、右から左から人の頬を打ってリングに沈めるようなタイトルだが、この組み合わせこそ本書の魅力の本質を表していると言えるだろう。

伊藤野枝と栗原康。
このコンビネーションがまずダブルパンチ、いや、ダブル・マーマイトなのだ。英国には、マーマイトという、好きな人はめっちゃ好きだが、嫌いな人はとことん嫌いという真っ黒な食品 (黒いんですよ、チョコレートでもないのに) がある。だから賛否が分かれる個性的なもののことを 「マーマイトみたいな映画」 とか 「マーマイトみたいな服」 と言ったりするのだが、伊藤野枝と栗原康はまさに二人ともマーマイトみたいな人物だ。マーマイト X マーマイト、黒 X 黒 (注:ロイヤルホストのハンバーグではない) の組み合わせが生んだ爆裂本、それが本書なのである。

単行本出版時、この本は、あらゆるリベラル系の女性著述家が書評を書いたのではないかというぐらい、女たちのこころの何かを撃ち抜いた。男性が書いた女性の評伝で、ここまで女性読者を熱狂させた例がかつてあったのだろうか。(以下省略)

雨宮まみさんの書評
女性の書き手たちによる絶賛書評のなかでも、とくにわたしの記憶に残っているのは、雨宮まみさんのものだった。

これはやばい。やばい。やばい。三回書くけどやばすぎる。面白すぎて死にそうだ。野枝そのものが面白すぎるしすごすぎるのに、それを栗原さんが書くんだからもう5倍増しぐらいのインパクトになっている。書店で見かけたら周りの本を全部なぎ倒したくなる。今読むべき本はこれだけでいい! と叫びたくなる。(雨宮まみ 「本でいただく心の栄養』 #7 『SPUR.JP』2016年6月20日更新)

そして、ブレイディみかこ氏による解説の最後の最後は、こんな言葉で閉じられています。

あらかじめ壊しながら生きる
(余白)
ところで余談になるが、英国ではマーマイト・ピーナッツバターなるものが発売されている。臭くて強烈な味わいのマーマイトに、ぼんやりした風味のピーナッツバターの組み合わせは、どう考えても致命的に合わない感じだが、これがなぜかおいしい。

もしわたしが書いていたとしたら、そんな野枝伝だったかな、などと未練がましいことをほざきたくなってしまうのも、いまだにこの作品は書き手の羨望をかきたてる力を持っているからだ。そして最後には、素直に祝福したくなる。
『村に火をつけ、白痴になれ』 はファッキン・マスターピースである。

※みなさんは 「平塚らいてう」 「大杉栄」 という名前を聞いて、何かを思い出す、あるいは思いつく、ということはないでしょうか。かつて学校 (それが小学校か中学校か高校かはわかりませんが)で習ったことがあるような、そんな記憶がありはしませんか? 無理には薦めませんが、たまの勉強だと思って読んでみてください。(ファッキン・マスターピースは、「とんでもない傑作」 「最高の作品」 といった意味のスラングです)

この本を読んでみてください係数 85/100

◆栗原 康
1970年埼玉県生まれ。
早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学、東北芸術工科大学非常勤講師、専門はアナキズム研究、著書に 『大杉栄伝』(角川ソフィア文庫)、『はたらかないで、たらふくたべたい』(ちくま文庫)、『現代暴力論』(角川新書)、『死してなお踊れ』(河出文庫)、『菊とギロチン』(タバブックス)、『何ものにも縛られないための政治学』(KADOKAWA)、『アナキズム』(岩波新書)、『執念深い貧乏性』(文藝春秋)、『学生に賃金を』『奨学金なんかこわくない! 』『アナキスト本をよむ』(新評論)、『サボる哲学』(NHK出版新書)など。

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