『教団X』(中村文則)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『教団X』(中村文則), 中村文則, 作家別(な行), 書評(か行)

『教団X』中村 文則 集英社文庫 2017年6月30日第一刷

突然自分の前から姿を消した女性を探し、楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。二人のカリスマの間で蠢く、悦楽と革命への誘惑。四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者の最長にして最高傑作。(集英社文庫)

中村文則の小説はどれもが難解で、本当なら私みたいな人間が読もうとすべき本ではないのかもしれない。まるで理解できないであったり、(別のことを言うがためにある文章を)手前勝手に曲解し、それでわかったようなふりをしているであるとか・・・・・

誰がこんな厄介なものを読むのだろう - と思ったりもするのだが、実は結構な数の人が読んでいる。多くの人は絶賛し、現に売れてもいるのだ。

失礼ながら、読んだすべての人が中村文則ほどには頭が良いとは思えない。無理を承知で読んでる人だってきっといるはずなのだ。(人は) なぜ中村文則の本を読もうとするのだろう。わざわざこんな本でなくても、他に楽して読める小説は山ほどあるというのに。

思うに、中村文則には強く拘るものがあり、何に対してかというと、(これが厄介なのだが)終始一貫して、それは人の「生き死に」であり「運命」であるらしい。

今の自分が(自分として)存在することにどんな意味があり、あるいは、思うほどの意味など本当はないのかもしれない、ということについて、時に強大な悪や暴力を語り、時には猥褻極まりないセックスを描き、神に託して(invocation)その真偽を解き明かそうとする。

絶望し、未来の見えない人に対して、彼はこんなふうに捲し立てる。但し、声に出しては言わない。彼は元来、臆病なのだ。

ならどんな幸福を望んでいる? と高原は言わない。許せないのに好きでたまらない男と愛憎の快楽にふける幸福がいい? とも言わない。そこからさらに進んで薬でもやって、快楽を限界まで突き詰めて灰になる幸福はどう? それともちょっと妥協してぱっとしない男と結婚する? 高原は頭の中で言葉を出し続ける。(中略)

仕事を極めて大勢の人間から尊敬され、でも内面の不安に悶えながら雑誌でインタビューでも受けてみる? いっそ宗教に身を任せるのは? 外界を蔑みながら自分は神に守られてる、死んでも天国にいけると思い込み続けて、実際に死んだあとは宇宙のチリになってももうその頃は死んでるから結局不幸も感じない幸福はどうだろう?(中略)

さあどれがいい? もっと色々あるよ幸福は。この人生が人間に与える幸福のバリエーションは様々だから。他人を押しのけて幸福を手に入れるんだ。幸福というのは他人の不幸を生むものだから。君の不幸も誰かの幸福の結果かもしれないのだから。

僕達の幸福は世界中の餓死者を無視した上に成り立つ閉鎖された空間なのだから。それともなんだい? インドの修行僧にでもなって一切を超越してみる? 高原は微笑む。そんなことは言わない。(第一部の文中より)
□□□□□□□□□□□□
全てが中途半端だった。自分は優秀であるはずなのに、まず受験で失敗した。連鎖して就職にも失敗し、自分に見合う会社に入れなければ、仕事が続かないのは仕方ないと思った。能力もなく、ただコミュニケーションの力だけで集団で群れる人間達。いつも邪魔する人間達。

だが自分は彼らを打ち倒すこともなく、屈服し続けた。プライドがもうもたなかった。社会の中で自分は有力なポジションにいるべきなのに、気がつくとどこにも就職できない状態になっていた。有力な会社、肩書、何でもいい、自分を納得させるものが欲しかった。

それが手に入らずただ年月だけが過ぎていき、次第に、自分の内面の芯のようなものが歪んでいくのを感じた。こんな社会は潰してしまえばいいはずなのに何もできなかった。通り魔というケチな犯罪はさすがにしたくなかった。部屋の中でじっとしていた。世間を呪いながら。

そして自分を呼ぶものの存在を感じるようになったのだ。薄暗い部屋でじっとしている時。何か、暗がりの中にいる何かが、自分を誘うように思えた。今振り返ればあれは予兆だったのだ。あの存在が教祖様へと繋がっているのだ。(第二部の文中より)

これらの文章はほんの一例で、畳み込むようなセンテンスこそ彼の得意とするところであり、そんな文章に出合いたいからこそ、(人は)中村文則の小説を読もうとするのかもしれない。他の人のことはともかくも、私にとってはそんなことであるような気がする。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「迷宮」「土の中の子供」「王国」「掏摸〈スリ〉」「何もかも憂鬱な夜に」「A」「最後の命」「悪と仮面のルール」他多数

関連記事

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7月18日 第23刷発行

記事を読む

『棺桶も花もいらない』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『棺桶も花もいらない』朝倉 かすみ U - NEXT 2025年4月25日 初版第1刷発行

記事を読む

『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初版発行 性格最悪同士の最

記事を読む

『子供の領分』(吉行淳之介)_書評という名の読書感想文

『子供の領分』吉行 淳之介 番町書房 1975年12月1日初版 吉行淳之介が亡くなって、既に20

記事を読む

『夜がどれほど暗くても』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『夜がどれほど暗くても』中山 七里 ハルキ文庫 2020年10月8日第1刷 追う側

記事を読む

『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『崩れる脳を抱きしめて』知念 実希人 実業之日本社文庫 2020年10月15日初版

記事を読む

『くもをさがす』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『くもをさがす』西 加奈子 河出書房新社 2023年4月30日初版発行 これはたっ

記事を読む

『首の鎖』(宮西真冬)_書評という名の読書感想文

『首の鎖』宮西 真冬 講談社文庫 2021年6月15日第1刷 さよなら、家族

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男』中山 七里 宝島社 2011年2月18日第一刷 マンションの13階からぶら

記事を読む

『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷 癌で入院している会社の後輩。上司から容

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑