『改良』(遠野遥)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『改良』(遠野遥), 作家別(た行), 書評(か行), 遠野遥

『改良』遠野 遥 河出文庫 2022年1月20日初版発行

これが、芥川賞作家・遠野遥のはじまりだ 第56回文藝賞受賞 驚愕のデビュー作

彼はただ、美しくなりたかっただけだった -
ゆるやかな絶望を生きる大学生の 「私」 は、バイトで稼いだ金をデリヘルと美容に費やす日々。やがて女性の服を買い、「美しさを人に認められたい」 と願うようになる。しかし人生で唯一抱いたその望みが、理不尽な暴力を運んできて - 。平成生まれ初の芥川賞作家、鮮烈のデビュー作。第56回文藝賞受賞。 ◎解説=平野啓一郎 (河出文庫)

「書いてある “あたり前” に感じる言い様のない違和感 - それはもう不快感といっていいでしょう - の正体とは一体何なのでしょう? 素直に受け入れられないのには、どんな訳があるのでしょう」 芥川賞受賞作 『破局』 を読んだ、これは私の感想。

本作 『改良』 もまた同様で - 作品全体を支配しているのが、ルッキズムである (解説より) - のはわかるのですが、とは言え、「私」 がとる行動や、とるに至る思考の過程がよくわかりません。

ただ、言えるのは、「私」 という人物は 「人としての感覚がどこか麻痺している」 ようで、その分人には 「従順である」 ということです。

私は嘗て、「『機械』 (横光利一) には、ただ心理だけがあり、感情がない。」 (「独白の不穏」 『モノローグ収録 と書いたことがあるが、改良に読者が感じる違和感も、これと似ている。主人公の納得する理屈は、その一文だけ取り出してみれば、瑕疵なく意味をなしているが、しかし、普通なら、状況に対してそれを適用しようとした時、何かもっと感情的な抵抗があるはずなのではないか、と感じられる。この小説に、どことなく人間の思考を学習したAIが書いたかのような雰囲気があるのは、そのためである。

主人公の強制に対する態度は、しばしば過剰適応的に見える。一概にヘンだとも言えないが、全体として共感出来るというわけでもない。しかし、本作が最終的に突こうとしているのは、まさにその微妙な一点なのである。(解説より)

これをあなたが “正しく” 理解できるかどうかはわかりません。しかし、確かに、こんな人は 「いるのだろう」 と。それが証拠に、現に書いた作家がいるのですから。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆遠野 遙
1991年神奈川県生まれ。東京都在住。
慶応義塾大学法学部卒業。

作品 2019年、『改良』 で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年 『破局』 で第163回芥川賞を受賞。その他の著書に 『教育』がある。

関連記事

『朝が来る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『朝が来る』辻村 深月 文春文庫 2018年9月10日第一刷 長く辛い不妊治療の末

記事を読む

『櫛挽道守(くしひきちもり)』(木内昇)_書評という名の読書感想文

『櫛挽道守(くしひきちもり)』木内 昇 集英社文庫 2016年11月25日第一刷 幕末の木曽山中。

記事を読む

『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『犬のかたちをしているもの』高瀬 隼子 集英社文庫 2022年9月17日第2刷 「

記事を読む

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷

記事を読む

『草にすわる』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『草にすわる』白石 一文 文春文庫 2021年1月10日第1刷 一度倒れた人間が、

記事を読む

『棺桶も花もいらない』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『棺桶も花もいらない』朝倉 かすみ U - NEXT 2025年4月25日 初版第1刷発行

記事を読む

『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 あたたかい桜、冷たく微笑む

記事を読む

『海馬の尻尾』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『海馬の尻尾』荻原 浩 光文社文庫 2020年8月20日初版 二度目の原発事故でど

記事を読む

『この世の全部を敵に回して』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『この世の全部を敵に回して』白石 一文 小学館文庫 2012年4月11日初版 あなたは子供の頃、

記事を読む

『カエルの楽園 2020』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『カエルの楽園 2020』百田 尚樹 新潮文庫 2020年6月10日発行 コロナ禍

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑