『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2023年8月25日初版発行

民間医療団体カルトの闇を暴け 奇妙な痣だらけの死体の謎に孤高の刑事・犬養が迫る!

警視庁捜査一課の犬養隼人は、娘の入院仲間だった少年の告別式に参列することに。自宅療養に切り替えた彼の遺体は奇妙な痣だらけだったが、両親は心当たりがないという。さらに翌月、同じような痣のある自殺死体が発見される。検視の結果いずれも事件性なしと判断されたが、納得できない犬養が独自に捜査を進めると、謎の医療団体に行き当たり・・・・・・・。これはカルトか、民間医療か。大人気社会派警察医療ミステリシリーズ第6弾! (角川文庫)

中山七里には珍しく、この本には解説があります。そして筆者は、世界平和統一家庭連合 (旧統一教会)を巡る一連の報道で連日メディアに登場するようになったあの、紀藤正樹弁護士です。

『ラスプーチンの庭』 の読後感には複雑な想いを持つ。それは殺人事件などの重大事件のニュースを見た時に感ずる想いに通ずるものである。日常に生起する事件には、我々社会が先に対策を取っていさえすれば、被害者も加害者も生じないのではないか、事件を防げたのではないかと考えさせられる事件が多々ある。本作で起こる事件にもまた、同様の感慨を感じた。創作であるはずの本作によって現実の事件の在りようまでをも想起させる著者の筆力に感嘆するほかない。

(この後紀藤氏は、2022年7月8日に起きた安倍元首相襲撃事件をはじめ、ものみの塔聖書冊子協会 (「エホバの証人」) 信者の輸血拒否や児童虐待の問題、オウム真理教の地下鉄サリン事件、詐欺で摘発された明覚寺や法の華三法などに言及します)

著者は本書で、こうしたカルト問題への対策が遅れたこの日本に、現実に起きた事件かのように精密なストーリーを組み立てる。その勢いは圧巻だ。犬養刑事は娘の友人の死に抱いた疑問をきっかけに、カルトの問題に鋭く切り込み、ラストまで予測もつかず、息もつかせぬ展開で、ぐいぐいと読者を引っ張っていく。私も著者の力量に呑まれ、あっという間に最後まで読み終わった。

事件の内容こそ異なるが、安倍元首相襲撃事件の被告人の家族の群像と本作品の家族の群像がつながり、ある意味、事件を先取りした。幸せで仲がよい家族、素直で優しい人たち、家族の死、自殺と他殺、児童虐待、難病に悩む人々、正体不明の教祖的人物、非科学を信じるアイドルや政治家、そしてメディアとの関係など、この小説には 「カルト教団めいた団体」 で実際に生起するであろう話題が盛りだくさんである。カルト現象に関する丹念な取材と調査に基づいて執筆されたものであることがよくわかる構成となっている。(解説より/途中略)

※読み終えた後、おそらく多くの人が 「第一章」 を読み直す (読み返す) だろうと思います。そこにはどんなことが、どんなふうに書いてあったのか。確かめずにはいられなくなります。

【参考】「刑事犬養隼人」 シリーズ角川文庫好評既刊 
1 切り裂きジャックの告白
2 七色の毒
3 ハーメルンの誘拐魔
4 ドクター・デスの遺産
5 カインの傲慢
6 ラスプーチンの庭
(本書)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」他多数

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