『ともぐい』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『ともぐい』(河﨑秋子), 作家別(か行), 書評(た行), 河﨑秋子
『ともぐい』河﨑 秋子 新潮社 2023年11月20日 発行
春に返り咲く山の最強の主 - 熊を、俺は撃つ。生きるための死闘を描き切った圧巻の熊文学誕生!!

死に損ねて、かといって生き損ねて、ならば己は人間ではない。人間のなりをしながら、最早違う生き物だ。
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化・・・・・・・すべてが運命を狂わせてゆく。人と獣の業と悲哀を織り交ぜた、理屈なき命の応酬の果ては - (新潮社)
河﨑秋子の新刊 『ともぐい』 を読みました。いつもながら、生きる命の根源を感じます。「今日的な幸福というちっぽけなヒューマニズムでは測れない、むきだしの物語だ。」 (東山彰良)- 氏が言う通り。見栄や飾りや駆け引きが一切ありません。その生き様に、己の来し方を振り返らざるを得なくなります。
時代は日露戦争前夜、国家が戦争へと突き進む混乱は北海道の片田舎にも波及し、町で暮らす人々の生活を侵食しつつあるが、熊撃ちを本領とする熊爪の人生は単純明快な原理にのっとって動いている。獲物を狩ってその肉を食らう。彼のすべてはその一点にかかっている。
- 人里離れた山中に独居し、獲物が獲れたときだけ町へ下りて肉や毛皮を商う。人生とはその繰り返しで、いかなる変化も煩わしいだけだ。「お前の幸福というものは、何だろうね。あるいは、幸福というものを感じる能力が、お前にはあるのか、ないのか、どちらだろう」 懇意にしている大店の主にこう言われれば、熊爪はこう切り返す。「毎日、なんも変わらなければ、それでいい」
ある日の大店で、熊爪は一人の少女と出会います。陽子という名の少女に、熊爪は、ある “なにか“ を感じます。おそらくは、“おのれに近しい“ なにかではあったのですが、熊爪にはそれが何かがわかりません。気付く手立てがありません。
獣肉や毛皮を売りに行く大店で、熊爪は盲目の少女・陽子を見初める。
時代は明治に入り、人々は文明開化の洗礼を受けたとはいえ、舞台は文明社会から遠く隔たった北海道の僻地だ。厳しい自然のなかでの生活は、今日の我々の目から見ればまだ充分に荒々しい野性を残している。
そのなかでも、熊爪と陽子の放つ野性はひときわ異質で濃厚だ。社会に溶け込めない、もしくは社会に組み込んでもらえないという意味で、ふたりともたしかに半端者なのかもしれない。だから同類相哀れむのも理解できる。だけど、彼らの軸足がかかっている場所は根本的に異なる。二十一世紀的なジェンダーの概念など吹き飛んでしまうくらい、ふたりの立場は揺るぎなく凝り固まっている。
こう言って差し支えなければ、けっして超越できない性別の壁によって分け隔てられている。彼らは男女ではなく、そう、一対の雄雌なのだ。さながら雄熊と雌熊が生存をかけて闘うように、熊爪と陽子も守るべきものを守るために本能をむきだしにして喰らい合う。(東山彰良/新潮社書評より抜粋)
※物語の後半、陽子と出会い、陽子と共に生きると決めた熊爪は、日を経ることなく、陽子の 「本性」 を知ることになります。生きて、生かされて、やがてふたりに子どもができるのですが、不思議なことに、陽子はいつまで経っても子どもに名前を付けようとしません。
☆この記事を書いている最中に第170回直木賞候補作が発表されました。その6作品の中に、みごと 『ともぐい』 が選出されました。河﨑さん、おめでとうございます!
この本を読んでみてください係数 85/100

◆河﨑 秋子
1979年北海道別海町生まれ。
北海学園大学経済学部卒業。
作品 「颶風の王」「肉弾」「土に贖う」「鯨の岬」「鳩護」「絞め殺しの樹」「清浄島」など
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