『神の悪手』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
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『神の悪手』(芦沢央), 作家別(あ行), 書評(か行), 芦沢央
『神の悪手』芦沢 央 新潮文庫 2024年6月1日 発行
このどんでん返しが切なすぎる!! 夢を追う苦悩と孤独を深く刻むミステリ短編集!
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/06/71XJdlHGMlL._AC_UL320_-1-1.jpg)
腹が立つほどの傑作。勝負に生きる苛烈さと、その果てにのみ生まれる光に胸が掻き毟られた。(凪良ゆう)
俺はなぜ、もっと早く引き返さなかったのか - 。棋士を目指して13歳で奨励会に入会した岩城啓一だったが、20歳をとうに過ぎた現在もプロ入りを果たせずにいた。9期目となった三段リーグ最終日前日の夕刻、翌日対局する村尾が突然訪ねてくる。今期が昇段のラストチャンスとなった村尾が啓一に告げたのは・・・・・・・。夢を追うことの恍惚と苦悩、誰とも分かち合えない孤独を深く刻むミステリ5編。(新潮文庫)
間違いなく、将棋好きにはたまらない一冊だろうと。将棋は好きでもないし、さほど興味もないという人も大丈夫。(将棋に関する) 知識はないよりある方がいいのは当然ですが、必ずしも “必須“ ではありません。少しは知っている方が尚楽しめるという程度で、「将棋は知らないし、わからないので読みません」 というのはとてももったいと思います。
最後を飾る 「恩返し」 の謎が、本作で一番魅力的かつ複雑な謎だろうと思う。こちらは将棋という競技を支える駒を作る駒師に焦点を当てた物語だ。中堅駒師である兼春の作った駒が、誉ある棋将戦に用いる駒の候補に挙げられる。他の駒候補には兼春の師匠・白峯が作った駒も挙がっていた。
当然ながら技量の違いに雲泥の差がある二つの駒だったが、何故か選ばれたのは兼春の駒だった。加えて、駒を選んだ棋士は駒に造詣の深いベテランの棋士・国芳なのだ。考えれば考えるほど、兼春の駒が選ばれる理由がない。この謎を深めるように、すんでのところで国芳棋将は白峯の駒を選び直す。一体国芳の中にいかなる葛藤があって駒は選び直されたのか。
こういう思いがけないところから生まれる謎が一番好きだ。人間ドラマがあるところには必ずミステリが生まれるという持論があるのだが、それを極限まで表している理想の短編だ。駒を通して、国芳という棋士の心の内が露わになっていく。そうして最後に示されるのは、一つの道を極めようとする者の核だ。(解説より/斜線堂有紀)
※この作品が一番かどうかは人それぞれですが、将棋のことをよく知らないというあなたにも、これなら抵抗なく読めるはずです。棋譜を読んだり見たりするのが平気な人は、おそらく別の作品の方が興味深く読めることでしょう。書いてあるのは、必ずしも将棋のことだけではありません。
この本を読んでみてください係数 85/100
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◆芦沢 央
1984年東京都生まれ。
千葉大学文学部史学科卒業。
作品 「罪の余白」「許されようとは思いません」「いつかの人質」「悪いものが、来ませんように」「火のないところに煙は」「夜の道標」「汚れた手をそこで拭かない」他多数
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