『彼女は存在しない』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『彼女は存在しない』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2003年10月10日初版


彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

平凡だが幸せな生活を謳歌していた香奈子の日常は、恋人・貴治がある日突然、何者かに殺されたのを契機に狂い始める・・・・。同じ頃、妹の度重なる異常行動を目撃し、多重人格の疑いを強めていた根本。次々と発生する凄惨な事件が香奈子と根本を結びつけていく。その出会いが意味したものは - 。ミステリ界注目の、若き天才が到達した衝撃の新領域! (幻冬舎文庫)

悪くはないのですが、評判ほどではない。読みやすいかといえばそうでもなくて、途中でこんがらがることがあります。

個人的には話の中に「性的虐待」が出てくるのがうまくない。正直うんざりする。前にも書きましたが、何かといえば決まってこの手の話が出てきて一気に読む気が失せます。それだけで(私の場合は)減点1。

対して、終わり間際の怒涛の展開は読み応え有りで、ここは加点1。この人らしいエグい描写がお好みの方には堪らない結末が待っています。突き詰めて言うと、私はここが、ここだけが面白いと感じました。全編を通じてこんな感じであれば星四つくらいは付けていいと思うのですが。

この小説は「多重人格者」で引きこもりの一人の女性を軸に、その周辺で起こる事件の真相と、周りを取り巻く人物らが抱える隠された真実を解き明かすサイコ・パズラーです。※ パズラーとは、謎解きメインの作品、謎の提示とその解決に重点を置いた本格ミステリーをいいます。

一人の女性とは、根本の妹で名前を亜矢子といいます。彼女は時として他人に向かって「失礼ですけど、アヤコさんではないですか? 」と問いかけたりします。自分は由子だと言い、私とアヤコは幼なじみだと言ったりします。

由子に限らず、彼女(亜矢子)はまた別の人格にも変化します。互いが干渉することなく独立して存在し、ある人物でいる時、彼女の中では亜矢子はおよそ他人でしかありません。それは根本に対しても同様で、亜矢子でないとき、彼女は兄を兄だと認識しません。

幼い頃に受けた虐待のせいで(少なくとも亜矢子本人はそう信じています)、彼女は度々異常な行動を取るようになっています。

多くの場合、多重人格者本人にはその(=虐待)記憶はないといいます。しかし、意識上に上ることはないといって、決して忘れているわけではありません。

虐待の記憶は心の中で冷凍保存されているようなもので、それがある日突然、解凍され、多重人格障害やフラッシュバックのような形をとって暴走する。通常の記憶と違ってコントロールがきかないのだといいます。

その状態が延々と続くと本当に心の中に別の人格が宿ってしまい、名前までつけられ、パーソナリティーを持って独立すると、しばしば身体を乗っ取るようになる。それが今の亜矢子の状況なわけです。

根本(フルネームは「根本有希」といいます)と亜矢子。根本には、恵という恋人がいます。

彼らとは別に、物語にはもう一つ、まるで違うところで暮らす若者たちの様子が同時進行で語られて行きます。香奈子という女性とその恋人の貴治、貴治の幼なじみで売れない作家の「浦田先生」と呼ばれる人物らが登場します。

彼らが、何時、如何なる状況で亜矢子と出会い、ひいては兄の根本に出会うことになるのか。事件は何が原因でいつ始まり、どこまでが真実で、どこからがそうではないのか。さっくり読むと、理解できているのかどうか、わからないような事態になります。

 

この本を読んでみてください係数 75/100


彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

 

◆浦賀 和宏
1978年神奈川県生まれ。

作品 「記憶の果て」「ふたりの果て/ハーフウェイ・ハウスの殺人」「眠りの牢獄」「こわれもの」「ファントムの夜明け」「緋い猫」他多数

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