『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2017/12/07 『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤), 作家別(あ行), 書評(さ行), 池井戸潤

『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷 @1,200

 

池井戸潤が好きである。

 

池井戸潤を知らない人でも「半沢直樹」は今や超が付く有名人になりました。

続いてTVドラマになった「ルーズベルト・ゲーム」も個性的な役者が揃い、社会人野球と企業再生の大逆転ゲームに多くの視聴者が喝采したことでしょう。

書店へ行けば「半沢直樹シリーズ」はもとより、”池井戸潤祭り”は今でも続いています。

そんななかで、この本を手に取った方も多いのではないかと思います。

 

半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)が刊行されている同時期にこの小説も店頭に並んでいます。

これは調べてもいない推測ですが、出版当初はどちらかというと『空飛ぶタイヤ』の方が注目されていたような気がします。

出版されて日を置かずにWOWOWで連続ドラマ(主演:仲村トオル)として映像化されてもいるのです。

 

池井戸作品に共通するのは、働く組織の中で逆境に立たされた主人公が危機的状況を打開しようともがき苦しみ、脅威の粘りとおよそ考えが及ばない逆転の発想でみごとに窮地を脱して

みせるドラマチックな展開にあります。

この物語に登場する町場の小さな会社「赤松運送」の経営者赤松もそういう人物です。

32歳の主婦に走行中のトラックからはずれたタイヤが直撃し、主婦は亡くなってしまいます。

トラックの所有者は赤松運送、製造元は巨大メーカーのホープ自動車。

ホープ自動車が実施した事故原因調査の結果は「整備不良」でしたが、赤松は自社で行う整備に絶対的な自信を持ち調査のやり直しを主張するのですが、事は思うように進んではくれません。

やがて赤松は「整備不良」の見解を曲げないホープ自動車の態度に疑念を抱くようになります。

ホープ自動車が長く業績不振であること、過去に事故調査を実施した結果がすべからく「整備不良」として報告されている事実などが赤松の疑念を確かなものにしていきます。

これは仕組まれた「リコール隠し」ではないか。

ホープ自動車は、部品の不具合イコール製造責任をひたすら回避しようとしているのではないか。

確信に至った赤松は、組織ぐるみの不正を暴き、身の潔白を証明するために巨大企業へ果敢に挑んでいくのです。

 

追記
10月4日(土)にWOWOWでまた『空飛ぶタイヤ』やりますよ。本が苦手な方は、ぜひ。

この本を読んでみてください係数 90/100


◆池井戸 潤

1963年岐阜県生まれ。

慶應義塾大学文学部および法学部卒業。1988年三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。

32歳で銀行を退職、コンサルタント業のかたわらビジネス書を執筆、その後小説家。

作品 「果つる底なき」「M1」「銀行狐」「最終退行」「不祥事」「シャイロックの子供たち」「鉄の骨」「民王」「下町ロケット」「七つの会議」ほか多数

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