『君のいない町が白く染まる』(安倍雄太郎)_書評という名の読書感想文

『君のいない町が白く染まる』安倍 雄太郎 小学館文庫 2018年2月27日初版

3月23日、僕は高円寺に引っ越した。駅を出ると、炭に焼かれる焼き鳥の匂いが鼻腔をくすぐり、路上ライブの弾き語りが響いている。僕の社会人生活がいよいよここから始まるんだと思いながら眠った夜、幽霊のアカネが現れた。この世を彷徨い続ける彼女はここに置いてと懇願。呪いが怖い僕は、アカネを追い払えず幽霊と同居することに。その結果、僕はアカネにどうしようもなく恋してしまった。これは、12月24日深夜に彼女をあの世に見送るまでの僕の恋の日記であり、彼女を取り巻く人達の話だ。- アカネ、僕は君をどうすれば引き留められたのかな。(小学館文庫)

第18回小学館文庫小説賞受賞作品

ある日部屋に戻ると、そこには幽霊がいた。名を、アカネという。

いきなりの、(幽霊にはあるまじき)横柄な態度と明け透けなもの言いはどうかとも思うが、嫌味がないので憎めない。人よりもなお臆病ではあるものの、白川ケイにしてみれば、実はまんざらでもなかった - はずである。アカネが、要は “可愛かった” のである。

幽霊と言っても、姿かたちはくっきりしているし、足もある。というより幽霊ってこんなに軽い雰囲気を纏っているものだろうか。ただの人間、あるいはただの女子大生にしか見えない。童顔で、ややふっくらとした張りのある頬は健康的な若々しさを表している。歯並びは良く、どの歯も純白に輝いていた。七分袖の白いシャツに、フリル付きのピンクのロングスカートを穿いており、髪には生意気にも緩いウェーブなんかかけてやがる。挙げ句の果てに惚れ惚れするくらい完璧なメークをしていて、肌艶は僕よりもずっと良く、表情からも自信が溢れている。幽霊が聞いて呆れる女子力だ。(P23)

最初彼女は、ベッドと冷蔵庫とビールの缶しか触れない。そのうち、ペンが持てるようになる。彼女はとても字が上手い。見惚れるほどの腕前である。そして、それとは別に、何よりビールが好物だ。

社会人一年生となり、高円寺にある真新しいアパートに引っ越して来て、いざ初出勤という間際になって白川ケイに訪れた不意の出来事は、これから先、彼の人生に如何なる影響を及ぼすことになるのだろうか。

彼には知る由もない。アカネの過去も、アカネがなぜ死んでまでこの世に留まっているのかも・・・・・・・

※この小説は、つまりは、真面目でやや軟弱な青年・白川ケイが、幽霊の、そんな彼女に恋をした。というお話です。

こんなのをライトノベルというのでしょうか? 昔の小説を読み慣れたオジさんには少々軽すぎて物足りなくも感じるのですが。しかし、おそらくそうではないのでしょう。

若い人(特に女子)なら、涙するかもしれません。軽いノリにしても、かえってその方がリアルでよく “わかる” のだと思います。書いてあるのは、紛れもなく「純愛」の物語です。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆安倍 雄太郎
1991年東京都台東区生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。

作品 本作で第18回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。

関連記事

『くちびるに歌を』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『くちびるに歌を』中田 永一 小学館文庫 2013年12月11日初版 中田永一が「乙一」の別

記事を読む

『回転木馬のデッド・ヒート』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『回転木馬のデッド・ヒート』村上 春樹 講談社 1985年10月15日第一刷 村上春樹が30

記事を読む

『ほろびぬ姫』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ほろびぬ姫』井上 荒野 新潮文庫 2016年6月1日発行 両親を事故で失くしたみさきは19歳で美

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

『そこへ行くな』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『そこへ行くな』井上 荒野 集英社文庫 2014年9月16日第2刷 長年一緒に暮ら

記事を読む

『黒い家』(貴志祐介)_書評という名の読書感想文

『黒い家』貴志 祐介 角川ホラー文庫 1998年12月10日初版 若槻慎二は、生命保険会社の京都支

記事を読む

『この話、続けてもいいですか。』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『この話、続けてもいいですか。』西 加奈子 ちくま文庫 2011年11月10日第一刷 先日たまた

記事を読む

『variety[ヴァラエティ]』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『variety[ヴァラエティ]』奥田 英朗 講談社 2016年9月20日第一刷 迷惑、顰蹙、無理

記事を読む

『今だけのあの子』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『今だけのあの子』芦沢 央 創元推理文庫 2018年7月13日6版 結婚おめでとう、メッセージカー

記事を読む

『ほどけるとける』(大島真寿美)_彼女がまだ何者でもない頃の話

『ほどけるとける』大島 真寿美 角川文庫 2019年12月25日初版 どうにも先が

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑