『ユートピア』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/10
『ユートピア』(湊かなえ), 作家別(ま行), 書評(や行), 湊かなえ
『ユートピア』湊 かなえ 集英社文庫 2018年6月30日第一刷
第29回 山本周五郎賞受賞作
太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。先祖代々からの住人と新たな入居者が混在するその町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。一方、陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援するブランドの立ち上げを思いつく。出だしは上々だったが、ある噂がネットで流れ、徐々に歯車が狂い始め - 。緊迫の心理ミステリー。(集英社文庫)
「善意」は「悪意」より恐ろしい。
足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金 「クララの翼」 を設立。しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす - 。湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。
地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが - 。(アマゾンの内容紹介より)
(湊かなえの読者なら百も承知でしょうが) 学ぶべきは - たいていの大人には表と裏の顔がある - ということです。
大人になって知り合った者同士の間に生まれる “友情” には、何気に注意が必要です。なるべくなら、期待しない方がいい。期待してショックを受けるのは、自分だからです。
そもそも生まれも育ちも違う人間が偶然にも同じ町に住み、近所付き合いを始めたとしても上手くいくはずがありません。何世代も続く田舎の隣同士でさえあやしいものを、まるで違う環境で暮らしてきた者同士が、すぐに仲良くなどなれるわけがないのです。
- いやいやそんなことはありません。私たちは意気投合し、(理想とする) 同じ目的に向かい日々有意義に過ごしていますというあなた - あなたはたぶん、とても無理をしています。
無理をしているのに気付かないふりをしているだけで、調子を合わせているものの、実は他人同士のする会話をひどく気にしたり、あげく、私に関する、悪い噂をしているのではないのだろうかなどと勘繰ってはいませんか?
この物語に登場する3人の “大人” の女性たちは、(あたりまえですが) 全てをさらして付き合っているわけではありません。
疑わしくはあるものの、いざとなったらさもそうであるようなふりをする。そんなことはしようと思わないし、したくもないけれど、それを言うのは気まずくて仕方ないから同意する。
当人にはあたりさわりのないことを言い、裏に回ると、まるで逆さの事を言いたいように言う。隠していたつもりの見下したものの言い方は、口づてに人から人に伝わって、やがて周囲に知れ渡る。噂が本当らしくなり、どれが真実か、わからなくなる。そんな話が書いてあります。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆湊 かなえ
1973年広島県因島市中庄町(現・尾道市因島中庄町)生まれ。
武庫川女子大学家政学部卒業。
作品 「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「望郷」「豆の上で眠る」「境遇」「往復書簡」「サファイア」「母性」「絶唱」「リバース」「物語のおわり」他多数
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