『あなたが消えた夜に』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『あなたが消えた夜に』中村 文則 朝日文庫 2018年11月15日発行


あなたが消えた夜に (毎日文庫)

連続通り魔殺人事件の容疑者 “コートの男” を追う所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋。しかし、それはさらなる悲劇の序章に過ぎなかった。世界の片隅で求め合う男と女。極限の愛が狂気に変わる時、「人間」 を超えた殺人者の終わりなき 《復讐》 が始まる - 。

神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。〈純文学×警察小説〉 かつてない衝撃!  圧倒的人間ドラマ!  待望の文庫化。(毎日新聞出版)

一つの殺人事件が起こります。数日後、それとは別に、ある傷害事件が起こります。年が明けてすぐのこと、今度は殺人と傷害、二つの事件が起こります。

目撃情報をもとに、それは “コートの男” 連続通り魔事件 と名付けられます。正式には 「市高町連続通り魔事件」。死者が二人になり、小さな町に、マスコミが群れとなって押しかけます。この段階での事実関係は、こうです。

① 12月21日午前2時30分から午前3時、竹林結城(40)が路上で殺害される。
② 12月28日午前1時15分頃、主婦A(横川佐和子《36》)が路上で切りつけられる。
③ 1月4日午前3時から午前3時30分、スポーツクラブの社長、真田浩二(41)が路上で殺害される。
④ 同1月4日午前9時頃、女性Bが高柳大助(28)に路上で切りつけられる。高柳大助は逮捕。 ※その後、全国に通り魔事件が多発する。市高町を除くと、その数は十件に及ぶ。

しばらくして、また事件が起こります。

⑤ 2月21日午前3時頃、精神科医、米村辻彦(45)が車内で死んでいるのが発見される。遺書に自分が “コートの男” であると記されていたが、一連の目撃情報と体型が違い過ぎている。

次に、捜査を続ける中で警察(のみ)が知り得た情報が、こうです。

1.③件目の被害者(真田)の靴下に付着していた青い繊維が、⑤件目の米村(精神科医)のクリニックの絨毯のものであったこと。
2.⑤件目の米村の遺書には、①件目と③件目の事件について、犯人しか知り得ない情報が記されていたこと。
3.③件目の被害者の口内には焼けた痕があり、⑤件目の犯行現場では死亡していた米村の運転免許証が燃やされていること。
4.③件目の被害者(真田)の知人(初川綱紀)が、⑤件目の米村のクリニックに行っていること。保険証提示の記録はあるが、そのカルテが破棄されていること。その初川は現在フィリピンにおり、部屋に空き巣が入っていること。米村のクリニックに行ったのは、その空き巣をした人物である可能性が高いこと。

確かに、初川のことは無視して、④の高柳が “コートの男” であり、米村のクリニックに行き犯行を伝えたとすれば全てすっきりする。犯行を止められなかったか、もしくはそそのかした米村は自殺。
でも高柳がクリニックに行った形跡はない。米村との関係性も依然見えてこない。

改めて見ても、意味がわからない。(ここまでで183ページあります)

※さすがという他ありません。刑事の中島が言う通り、ここまで読んだだけでは何が何だかさっぱりわかりません。単なる通り魔事件でないのはわかるのですが、では、各々がどう繋がっており、どんな関係があるのか。ないのか。まるで予測がつきません。

最初読者は、犯人は誰か、誰が “コートの男” なのかと、そればかりが気になって仕方ないはずです。そちらに気を取られ、つい、これが “並みのサスペンスではない” のを忘れてしまうかも知れません。

話は、途中思わぬ人物らが登場し - 実はかれらこそがこの物語における最重要人物なのですが - 事件はまるで違う形へと変化していきます。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


あなたが消えた夜に (毎日文庫)

◆中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「土の中の子供」「王国」「掏摸」「何もかも憂鬱な夜に」「最後の命」「悪と仮面のルール」「教団X」「その先の道に消える」他多数

関連記事

『赤へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『赤へ』井上 荒野 祥伝社 2016年6月20日初版 赤へ ふいに思い知る。すぐそこにあるこ

記事を読む

『いやしい鳥』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『いやしい鳥』藤野 可織 河出文庫 2018年12月20日初版 いやしい鳥 (河出文庫)

記事を読む

『その先の道に消える』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『その先の道に消える』中村 文則 朝日新聞出版 2018年10月30日第一刷 その先の道に消え

記事を読む

『異邦人(いりびと)』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『異邦人(いりびと)』原田 マハ PHP文芸文庫 2018年3月22日第一刷 異邦人(いりびと

記事を読む

『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版 線の波紋 (小学館文庫)

記事を読む

『いつか深い穴に落ちるまで』(山野辺太郎)_書評という名の読書感想文

『いつか深い穴に落ちるまで』山野辺 太郎 河出書房新社 2018年11月30日初版 いつか深

記事を読む

『青色讃歌』(丹下健太)_書評という名の読書感想文

『青色讃歌』丹下 健太 河出書房新社 2007年11月30日初版 青色讃歌  

記事を読む

『噂』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『噂』荻原 浩 新潮文庫 2018年7月10日31刷 噂 (新潮文庫) 「レインマンが出没し

記事を読む

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 痺れる (光文社文庫)

記事を読む

『炎上する君』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『炎上する君』西 加奈子 角川文庫 2012年11月25日初版 炎上する君 (角川文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『父からの手紙』(小杉健治)_書評という名の読書感想文

『父からの手紙』小杉 健治 光文社文庫 2018年12月20日35刷

『悪人』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『悪人』吉田 修一 朝日文庫 2018年7月30日第一刷 悪人

『ニューカルマ』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『ニューカルマ』新庄 耕 集英社文庫 2019年1月25日第一刷

『自由なサメと人間たちの夢』(渡辺優)_書評という名の読書感想文

『自由なサメと人間たちの夢』渡辺 優 集英社文庫 2019年1月25

『私の恋人』(上田岳弘)_書評という名の読書感想文

『私の恋人』上田 岳弘 新潮文庫 2018年2月1日発行 私の

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑