『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』山田 詠美 幻冬舎文庫 1997年6月25日初版

soul music の好きな方のために、タイトルになっている曲をご紹介しましょう。

1) WHAT’S GOING ON /Marvin Gaye
2) ME AND MRS.JONES/The Dramatics
3) 黒い夜 Got To Give It Up/Marvin Gaye
4) PRECIOUS PRECIOUS/Otis Clay
5) MAMA USED TO SAY/Junior
6) GROOVE TONIGHT/Nu Flavor
7) FEEL THE FIRE/Teddy Pendergrass
8) 男が女を愛する時 When A Man Loves A Women/Percy Sledge

まるで曲紹介のPV (プロモーションビデオ) みたいな小説だ、という読者の感想があります。これはまったく正しい感想で、黒人たちが体で自分たちの音楽を愛するさまを描こうとしたのが、『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』 という小説です。

「ひとりの男を愛すると三十枚の短編小説が書ける。この法則を私は最近知った。」- こんなカッコいい書出しで始まる「あとがき」だけでも読んでみてください。この人があまたいる女性作家の中でも、最初っからどれだけイケてた人かがよく分かります。

直木賞の選評の中にもありますが、おそらく山田詠美以外誰も書きそうにない小説です。と言うより、たぶん、そんじょそこらの日本女性には書こうとしても書けない代物です。

私は黒人が好きで、なぜなら慣れ親しんでいるからだと彼女は言います。自堕落でやさしくて感情を優先させる自意識の強過ぎる、そして愛に貪欲な彼らが大好きだと言います。彼らの中に身を置いたおかげで、今の私はただの男好きだと言ってのけます。

〈言うだけ〉ならカンタン、〈する〉のは訳もないこと。しかし直木賞に値する小説を書くとなると、これは誰もができることではありません。1987年ですから、今から28年も前のことです。弱冠28歳と5ヶ月の山田詠美は、この作品で白石一郎氏と共にみごと第97回の直木賞を受賞します。
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『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』の受賞は、当時大きな話題になりました。が、この小説を推した選考委員の人たちこそが、偉い。よくぞ選んでくれました。さすがに見る目があります。

選考委員の一人、黒岩重吾氏は 「白石一郎と山田詠美の両氏が候補になったところに直木賞の意義がある」 と述べ、陳舜臣氏は 「十年、二十年、そしてもっと先まで、どのように変わって行くにせよ、読者を楽しませつづける、たぐいまれな作家であることはまちがいない」 と、最高の賛辞を贈っています。

そして受賞から30年近く経った今日、陳氏の言葉がまぎれもない真実であったことは誰もが認めるところだと思います。なんと鮮やかで、なんと見事な選評であったことでしょう。

黒人絡みのアクの強い性愛小説はちょっと苦手、という方がおられるやも知れませんが、どうかご心配なく。山田詠美という人は、エロさ全開の話ばかりを書いているわけではありません。

例えば、純情極まりない少年少女の物語 『僕は勉強ができない』などという小説を読んでみてください。必ずや見る目が変わると思います。ときには読み比べて、その落差にびっくりするのも良いでしょう。とにかく、今在る私たちにとっては、詠美女史の衰えを知らないsoulfulなハートに、ひたすら感謝感謝なのであります。

この本を読んでみてください係数  85/100


◆山田 詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。

作品 「僕は勉強ができない」「風葬の教室」「ジェントルマン」「ベッドタイムアイズ」「A2Z」「風味絶佳」「学問」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数

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