『彼女が最後に見たものは』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『彼女が最後に見たものは』まさき としか 小学館文庫 2021年12月12日初版第1刷

彼女が最後に見たものは (小学館文庫)

理不尽な死と家族の崩壊を描く圧巻のミステリ
あの日、君は何をした三ツ矢&田所刑事シリーズ第2弾

クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルで女性の遺体が発見された。五十代と思われる女性の着衣は乱れ、身元は不明。警視庁捜査一課の三ツ矢と戸塚警察署の田所は再びコンビを組み、捜査に当たる。
そして、女性の指紋が、千葉県で男性が刺殺された未解決事件の現場で採取された指紋と一致。名前は松波郁子、ホームレスだったことが判明する。二つの不可解な事件は予想外の接点でつながるが!?  彼女はなぜ殺されなければならなかったのか。真実が明かされる時、景色が一変する。(小学館文庫)

差こそあれ、中々に人は思い通りに生きられません。期待は概ね裏切られ、苦労は報われず、何かしら人に言えない悩みを抱えています。仕事や家族や子供について。病気や今ある暮らしや未来について、確かな希望が持てずにいます。

なぜこんなことになってしまったのか。多くを欲したわけではなかったのに。人として、せめて最低限の生活がしたかった。そんな気持ちでいたものを - 理不尽で、極めて冷たい扱いを - それでも彼女はされたのでした。

発端は十二月二十四日の夜、東京都新宿区高田馬場の空きビルの一階で女性の遺体が発見されたこと。着衣には脱がされかけたと思われる乱れがあり、頭部には打撲痕があった。身元がわかるものを所持しておらず、家出人もしくはホームレスの可能性も視野に入れられたこの事件の現場に警視庁からやってきたのが三ツ矢秀平。彼と組むのは前作でも相棒だった戸塚警察署の若手刑事・田所岳斗。やがて、遺体の指紋がデータベースに登録されていることがわかり、二人は千葉市郊外に住む東山里沙のもとを訪ねる。里沙の夫・義春は昨年八月二十日の朝、自宅から五百メートルほどの距離にある公園内で殺されており、その殺害現場に残されていたバッグからクリスマスイブに発見された遺体の指紋が採取されていたのだ。しかし、亡くなった女性の写真を見ても、里沙は知らないと首を振るばかり。

被害者が 松波郁子 五十六歳と判明したのは、事件から五日目。郁子が千葉に住んでいたときにご近所さんだったという人からの情報提供だった。更年期障害が重かったこと。三年前に夫の博史がくも膜下出血で倒れたところをトラックに轢かれて亡くなっていること。郁子の生前の姿が少しずつ明らかになっていく中、三ツ矢と田所は彼女が住んでいた貸家の大家から重要な情報を得る。郁子が急に家の解約を申し出たのが一年前の八月十九日で、退去したのはその翌日だったのだ。東山義春の死亡推定時刻は、八月十八日の午後六時から十二時の間。田所は郁子が義春殺しの犯人の可能性が高いのではないかと色めき立つ。(解説より)

捜査が進むにつれ、やがてわかるのですが、状況は田所が考えるほど単純なものではありません。二つの事件を間に挟み - 人の欲望や絶望、哀切や葛藤など - 幾重もの感情が渦巻いています。

捜査の過程において、郁子の夫の松波博史を轢いてしまったトラック運転手の井沢勇介、その元妻の成美、東山義春の妻の里沙、里沙の娘の瑠美奈、井沢が知り合った高橋兄弟等、大勢の人間が登場し、彼ら全員が (陰に陽に) 何かしら事件に関係しています。

描かれるのは 「理不尽な死」 と 「家族の崩壊」 です。松波郁子は、なぜ殺されなければならなかったのか? なにゆえホームレスになったのか?

複雑に絡まる人と人との関係を、視点を変え、時を戻りつ語られるうち、やがて驚くべき真実が明らかになっていきます。思いもしない結末が待ち受けています。

この本を読んでみてください係数 85/100

彼女が最後に見たものは (小学館文庫)

◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。

作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「途上なやつら」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「屑の結晶」「あの日、君は何をした」「祝福の子供」他

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