『監殺』(古野まほろ)_書評という名の読書感想文
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『監殺』(古野まほろ), 作家別(は行), 古野まほろ, 書評(か行)
『監殺』古野 まほろ 角川文庫 2021年2月25日第1刷
唯一無二 異色の警察ドラマ! 晴らせぬ組織人の恨み、晴らします -
優秀な警部が警察署内で首を吊った。闘病の末の自殺だという。背景にあったのは組織ぐるみの陰湿なパワハラだった。警察の罪を取り締まる目的で集められた異端児集団 「監殺部隊SG班」 は、悪徳上司たちに “処分” を下すため、秘密裏に動きはじめる・・・・・・・。出世レース、派閥争い、人間関係の軋轢 - 私怨と義憤が渦巻く中、声なき者の無念は晴らせるのか。組織で働くすべての人に贈る、元警察官作家による圧巻の復讐ドラマ! (角川文庫)
犯罪の取締りは、警察の代表的な職務である。
そのために、警察には、強力な権限が与えられている。
逮捕する。捜索する。検証する。取調べをする -
こういった権限は、一般企業、一般市民には普通、認められないものだ。
また検察、海保、麻取といった競合他社は、犯罪の数%を捜査しているに過ぎない。
すなわち警察は、犯罪の取締りを、ほぼ独占する組織である。
三十万人の治安関係総合商社、警察 -
ならば。
この三十万人の実力組織のなかで犯罪が行われたら?
この三十万人の実力組織の誰かが犯罪を行ったら?
この独占企業に、誰がメスを入れるのであろうか。
それが、監察である。
*
シンプルには、監察とは、警察自身による内部調査だ、ということになる。
これに関して、警察は、様々な更新プログラムをインストールし続けた。
二十年前、三十年前に比べると、監察機能は著しく強化されている。観察結果の透明性は、説明責任のシステム化によって、著しく向上している。
しかし・・・・・・・
『警察の監察』 が、当の警察のなかに在るという、問題の本質は絶対に解決されない。
プログラムのバグに泣く者、システムのエラーに憤る者は、必ず生産され続ける。
そう、警察の不祥事に泣く者、警察の非違に憤る者が。
『警察の警察』 の機能不全を怨嗟する者が。
その不作為に、隠蔽に、虚偽に憤慨する者が -
その怒りは誰が拾うのか。
その無念は誰が晴らすのか。
監察が駄目なら誰がやる?
これからの物語は、とある県警における、監殺を担う警察官たちの記録である。(本文より)
※県警内部で暗躍する悪徳警察官たちを一掃するため、密かに集められたのは、B県警察 - 巡回教養班 (SG班) に所属する5人のメンバーでした。
中村文人 (警視) 警務部警務課SG班班長 「チート昇任の中村」
秦野 鉄 (警部) SG班班長補佐 (第1係担当) 「機動隊の狂犬」
漆間雄二 (警部) SG班班長補佐 (第2係担当) 「公安警察の茶人」
後藤田秀 (巡査部長) SG班第1係主任 「ポリスの王子様」
國松友梨 (巡査) SG班第2係係員 「Gと呼ばれた嬢王」
注:SGはサテライト・ガイダンスの略で 「巡回教養」 を意味します。
これはもう 「必殺仕掛人」 から続く必殺シリーズの現代版、警察内部版という他にない作品で、班長の中村文人は表向きとぼけた性格で、(藤田まこと演じる) 中村主水に限りなく寄せたに違いありません。よく知る人ならわかるはずです。面白くない、わけがありません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆古野 まほろ
東京大学法学部卒業。リヨン第3大学法学部第3段階専攻修士課程修了。警察庁Ⅰ種警察官として交番、警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務の後、警察大学校主任教授にて退官。
作品 「天使のはしたなき果実」で第35回メフィスト賞を受賞しデビュー。他に 「老警」「女警」「新任巡査」「新任刑事」「R.E.D.警察庁特殊防犯対策官室」シリーズ、他
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