『宰相A』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/11
『宰相A』(田中慎弥), 作家別(た行), 書評(さ行), 田中慎弥
『宰相A』田中 慎弥 新潮文庫 2017年12月1日発行
揃いの国民服に身を包む金髪碧眼の「日本人」に、武力による平和実現の大義を説く黒髪の首相A。母の墓参に帰郷したはずが、「日本国」の違法侵入者として拘束された小説家Tは、主権を奪われた「旧日本人」の居留地に送られる。そこで自分と瓜二つの伝説の救国者Jの再来とみなされたTは、国家転覆を狙うレジスタンス闘争に巻き込まれていく。もう一つの日本に近未来の悪夢を映す問題作。(新潮文庫)
「戦争の向こうにしか平和はない」 と宰相Aは吠え続けた。もう一つの「日本国」の悪夢を描く戦慄のディストピア小説。
・・・・・・・ これではちょっと弱すぎる。
お前は日本人じゃない、旧日本人だ。そして我が国は今も世界中で戦争中なのだ! 小説の書けない作家Tが母の墓参りに向かっている途中で迷い込んだのは、国民は制服を着用し、平和的民主主義的戦争を行い、戦争こそ平和の基盤だと宰相Aが煽る「もう一つの日本」だった。作家Tは反体制運動のリーダーだと崇められ、日本軍との闘いに巻き込まれるが・・・・・・・。獰猛な想像力が現実を食い破る怪物的野心作! (アマゾン「内容紹介」より)
そう! こんな感じ!! こっちの方が断然伝わる。
「獰猛な想像力」 が 「現実を食い破る」 って・・・・・・・、中々にない表現ですが、まあ騙されたと思って読んでみてください。
宰相Aとは、アドルフ・ヒトラー、あるいは安倍晋三。(がモデル!? )
小説の書けない作家Tは、(当然ながら)著者の田中慎弥。(がモデル!! )
では、(田中慎弥ではなく)田中慎弥らしき小説家と瓜二つの伝説の救国者、英雄のJとは?
※まるで間違った想像でしょうが、田中慎弥はこの小説を - ありったけの皮肉を込めて、狂気のように机に向かい、ちびた鉛筆でガリガリと音を立て、ウーウーと唸り声をあげながら、時に冷たく笑いもし、殴りつけるようにして書き上げた - そんな感じがします。
何をして田中慎弥はそこまで凶暴なのか? 彼の怨みつらみははるか地平の彼方、異次元の世界へと突き進むかのような勢いで、容赦もくそもない。
なのに、そこでも彼は「上手く小説が書けない自分」を嘆いてばかりで、小説家である自分からは一歩も外へ出ようとはしません。
そして、母。 彼の思うところは、結局はそこになる。
弱虫め。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆田中 慎弥
1972年山口県下関市生まれ。
山口県立下関中央工業高等学校卒業。
作品 「切れた鎖」「夜蜘蛛」「神様のいない日本シリーズ」「犬と鴉」「共喰い」「図書準備室」「実験」「燃える家」「孤独論/逃げよ、生きよ」など
関連記事
-
『指の骨』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文
『指の骨』高橋 弘希 新潮文庫 2017年8月1日発行 太平洋戦争中、激戦地となった南洋の島で、野
-
『たまさか人形堂ものがたり』(津原泰水)_書評という名の読書感想文
『たまさか人形堂ものがたり』津原 泰水 創元推理文庫 2022年4月28日初版 人
-
『切願 自選ミステリー短編集』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『切願 自選ミステリー短編集』長岡 弘樹 双葉文庫 2023年3月18日第1刷発行
-
『死者の奢り・飼育』(大江健三郎)_書評という名の読書感想文
『死者の奢り・飼育』大江 健三郎 新潮文庫 2022年11月25日84刷 23歳と
-
『正しい愛と理想の息子』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文
『正しい愛と理想の息子』寺地 はるな 光文社文庫 2021年11月20日初版1刷 物
-
『あの日のあなた』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『あの日のあなた』遠田 潤子 角川事務所 2017年5月18日第一刷 交通事故で唯一の肉親である父
-
『作家的覚書』(高村薫)_書評という名の読書感想文
『作家的覚書』高村 薫 岩波新書 2017年4月20日第一刷 「図書」誌上での好評連載を中心に編む
-
『せんせい。』(重松清)_書評という名の読書感想文
『せんせい。』重松 清 新潮文庫 2023年3月25日13刷 最泣王・重松清が描く
-
『サキの忘れ物』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
『サキの忘れ物』津村 記久子 新潮社 2020年6月25日発行 見守っている。あな
-
『さいはての彼女』(原田マハ)_書評という名の読書感想文
『さいはての彼女』原田 マハ 角川文庫 2013年1月25日初版 25歳で起業した敏腕若手女性