『最後の証人』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『最後の証人』(柚月裕子), 作家別(や行), 書評(さ行), 柚月裕子

『最後の証人』柚月 裕子 角川文庫 2018年10月30日8刷

検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」 だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり・・・・・・・

元検察官の佐方貞人は刑事事件専門の敏腕弁護士。犯罪の背後にある動機を重視し、罪をまっとうに裁かせることが、彼の弁護スタンスだ。そんな彼のもとに舞い込んだのは、状況証拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。果たして佐方は、無実を主張する依頼人を救えるのか。感動を呼ぶ圧倒的人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に融合した傑作法廷サスペンス。(「BOOK」データベースより)

佐方貞人シリーズ・第1作 『最後の証人』 を読みました。この後、シリーズは第2作 『検事の本懐』(第15回大藪春彦賞受賞)、第3作 『検事の死命』 と続くことになります。

実は私は、(何も知らずに) 最初シリーズの第2作にあたる 『検事の本懐』 を読みました。何気に手に取ったのですがこれがはるかに予想を超えて面白く、朴訥を絵に描いたような佐方という人物の、胸のすくような仕事ぶりにすっかり魅了されたのでした。

その頃佐方は、東京から新幹線で北に二時間ほどのところにある地方都市で新米検事として働いています。そのときの彼の活躍ぶり、あるいはそもそも彼がなぜ検事という職業を選んだのか、事件に際しあくまで真摯であろうとする彼の姿勢などが縷々綴られています。

ところが、シリーズ・第1作であるこの 『最後の証人』 では、既に佐方は検事を辞めて、弁護士になっています。

- それでは順番が逆ではないか? そう思うのは至極当然のことです。(最初、私もそう思いました) なら、なぜ 『検事の本懐』 を第1作にしなかったのか? と誰もが思うでしょう。

そうに違いありません。しかし、それは “できない” ことだったのです。なぜなら、『最後の証人』 は当初単体の読み物で、シリーズ化の予定などなかったのですから。

ところが、作品に登場する 「佐方貞夫」 という人物に対する反響が思いのほか大きかった。「佐方のことをもっと知りたい」 という読者が数多くいたのだそうです。

その声に応えるために書かれたのが 『検事の本懐』 であり、『検事の死命』 であるということ。佐方が法曹の世界へ足を踏み入れた初期の段階から、そう長くはない検事時代の仕事ぶりを振り返ることで、 佐方貞人の “人となり” とをより鮮明に描き出そうと。

そんな中、第2作・第3作は生まれたのでした。但し、言わずもがなですが、三冊はそれぞれに独立しており、一冊だけでも十二分に楽しめるものになっています。

が、一冊読めばきっとあなたは思うはずです。もっと読みたいと。佐方貞人のことをもっと知りたいと。佐方にはそう思わせる何かがあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆柚月 裕子
1968年岩手県生まれ。

作品 「臨床真理」「検事の本懐」「検事の死命」「蝶の菜園 - アントガーデン -」「パレードの誤算」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」「孤狼の血」他多数

関連記事

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』(尾形真理子)_書評という名の読書感想文

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形 真理子 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 年

記事を読む

『純喫茶』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『純喫茶』姫野 カオルコ PHP文芸文庫 2016年3月22日第一刷 あれは、そういうことだっ

記事を読む

『湖の女たち』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『湖の女たち』吉田 修一 新潮文庫 2023年8月1日発行 『悪人』 『怒り』 を

記事を読む

『スペードの3』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『スペードの3』朝井 リョウ 講談社文庫 2017年4月14日第一刷 有名劇団のかつてのスター〈つ

記事を読む

『さよなら、田中さん』(鈴木るりか)_書評という名の読書感想文

『さよなら、田中さん』鈴木 るりか 小学館 2017年10月17日初版 花実はじつにあっけらかん

記事を読む

『前世は兎』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『前世は兎』吉村 萬壱 集英社 2018年10月30日第一刷 7年余りを雌兎として

記事を読む

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』(姫野 カオルコ)_書評という名の読書感想文

『ジャズをかける店がどうも信用できないのだが・・・・・・。』姫野 カオルコ 徳間文庫 2016年3月

記事を読む

『芝公園六角堂跡/狂える藤澤清造の残影』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『芝公園六角堂跡/狂える藤澤清造の残影』西村 賢太 文春文庫 2020年12月10日第1刷

記事を読む

『潤一』(井上荒野)_書評という名の読書感想文 

『潤一』井上 荒野 新潮文庫 2019年6月10日3刷 「好きだよ」 と、潤一は囁い

記事を読む

『ずうのめ人形』(澤村伊智)_書評という名の読書感想文

『ずうのめ人形』澤村 伊智 角川ホラー文庫 2018年7月25日初版 不審死を遂げたライターが遺し

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑