『ここは、おしまいの地』(こだま)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『ここは、おしまいの地』(こだま), こだま, 作家別(か行), 書評(か行)

『ここは、おしまいの地』こだま 講談社文庫 2020年6月11日第1刷

私は かわいそうなんかじゃない。
『夫のちんぽが入らない』 から一年。辺境で暮らす主婦が振り返る、失敗続きの半生。第34回講談社エッセイ賞受賞作

田舎の集落で生まれ、規格外の人生観を持つ家族のもと 「当たり前」 すら知らずに育った著者。悪臭立ち込める新婚生活を経て、病気で無職になってからも災厄続き。それでも折れない清らかな花のような佇まいで、ユーモラスに綴る愛しき半生とは。(講談社文庫)

ここには、おもしろいことが、たくさんありました。

泣く子は縛る が基本方針の母。不謹慎な笑いを好む父。腰に短刀を忍ばせていたらしい祖母。アル中の叔父。実家を襲う空き巣と訪問販売員。金髪のヤンキー彼氏。早死にしそうな人 ランキング1位獲得。念願の教職。学級崩壊と失職。こじらせた持病。首筋に埋め込まれたボルト。幻聴。夫との出会い。地獄のように臭い借家・・・・・・・。(帯文より)

これは、良くできた (小説の) 短編集ではありません。(ぐらいに面白い!! ) 匿名の主婦の、半生にわたる私生活を詳らかにしたエッセイです。

名もなき主婦かというと、そうではありません。最近のことですが、初めて書いた私小説 『夫のちんぽが入らない』 がどえらい話題になりました。あまりにセンセーショナルなタイトルに、手に取るのを躊躇った人もたくさんいたことでしょう。

『夫のちんぽが入らない』 は、過激なタイトルとは裏腹に、真面目の上に超が付くような小説で、下世話なところは一切ありません。著者が体験した、「あるはずのない悲劇」 が綴られています。時にユーモラスに、自分を励ますよう、できる限り何でもないことのようにして。

小説のときと同様、このエッセイにおいても著者がどこの何者かは明かされていません。おおよそ四十歳の前半ではないか。思うに北海道の人ではないか。どうやら札幌辺りの都会ではなく、そこからはかなり離れた田舎の、ぽつんとある山奥の集落が出身地らしい。

そもそもは 「そこで生まれたことが辛かった」 というところから話は始まってゆきます。おそらく全てが本当の話で、他人からみれば (同情はするものの) どこか笑えてしまうのですが、本人にすれば、なかなか人には言えないことだったろうと。

つらい話をなるだけ前向きに、深刻にならぬよう努めて明るく振る舞うのはいいのですが、ついやり過ぎて失敗するのが可笑しく、どこかそれを楽しんでいるような気配がなくもありません。

この人が自分以外の人物を主人公に小説を書いたら、どんな話になるのでしょう。それがとても楽しみです。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆こだま
主婦。2017年1月、実話を元にした私小説 『夫のちんぽが入らない』(扶桑社) でデビュー。たちまちベストセラーとなり、「Yahoo! 検索大賞2017」 小説部門賞受賞。同作は漫画化され、連続ドラマ化も決定し話題に。

作品 「夫のちんぽが入らない」

関連記事

『カンガルー日和』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『カンガルー日和』村上 春樹 平凡社 1983年9月9日初版 村上春樹が好きである。 私が持っ

記事を読む

『茗荷谷の猫』(木内昇)_書評という名の読書感想文

『茗荷谷の猫』木内 昇 文春文庫 2023年7月25 第7刷 もう少し手を伸ばせばあの夢にと

記事を読む

『くちびるに歌を』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『くちびるに歌を』中田 永一 小学館文庫 2013年12月11日初版 中田永一が「乙一」の別

記事を読む

『鏡じかけの夢』(秋吉理香子)_書評という名の読書感想文

『鏡じかけの夢』秋吉 理香子 新潮文庫 2021年6月1日発行 「このゾクゾクがた

記事を読む

『櫛挽道守(くしひきちもり)』(木内昇)_書評という名の読書感想文

『櫛挽道守(くしひきちもり)』木内 昇 集英社文庫 2016年11月25日第一刷 幕末の木曽山中。

記事を読む

『高架線』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『高架線』滝口 悠生 講談社 2017年9月27日第一刷 そうやって元のところに留まらないで、次々

記事を読む

『螻蛄(けら)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『螻蛄(けら)』黒川 博行 新潮社 2009年7月25日発行 信者500万人を擁する伝法宗慧教

記事を読む

『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲)_書評という名の読書感想文

『君が手にするはずだった黄金について』小川 哲 新潮社 2023年10月20日 発行 いま最

記事を読む

『家族の言い訳』(森浩美)_書評という名の読書感想文

『家族の言い訳』森 浩美 双葉文庫 2018年12月17日36刷 帯に大きく - 上

記事を読む

『岸辺の旅』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『岸辺の旅』湯本 香樹実 文春文庫 2012年8月10日第一刷 きみが三年の間どうしていたか、話し

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑