『変半身/KAWARIMI』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『変半身/KAWARIMI』(村田沙耶香), 作家別(ま行), 書評(か行), 村田沙耶香
『変半身/KAWARIMI』村田 沙耶香 ちくま文庫 2021年11月10日第1刷

残酷にまわり続ける世界で生きる
ニンゲンたちを描く
哄笑と恐怖に満ちた村田ワールド。最新文庫版、いざ降臨!青春は蹂躙され初恋は汚染され真実は歪曲されて、
狂信と不信、秘史と偽史、
人間と人外の境界を越えて見えるのは、原始の真相か、深層の幻視か -
最高の周章狼狽を味わえ! 李琴峰 (作家・第165回芥川賞受賞)
※周章狼狽:大いにあわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。「だって、私たちって、家畜じゃない」 (「変半身」) 「僕たちの身体には奇跡が眠っているんだ」 (「満潮」)- 若者が贄となる孤島の秘祭 「モドリ」 の驚愕の真相から恐るべき世界の秘密が明かされる 「変半身」、「潮を吹きたい」 という夫に寄り添う妻がふたりで性の変容を探求する 「満潮」、ニンゲンの宿命と可能性を追求して未知の世界を拓く村田ワールドの最新の到達点を見よ! (ちくま文庫)
目次
変半身 (かわりみ) 原案=松井周 村田沙耶香
満潮
「潮を噴いてみようと思うんだ」
「・・・・・・・潮? 」
夫が何を言っているのかわからなかった。言葉を失くした私と対照的に、夫はさっきまでもごもごしていたのが嘘のように、身を乗り出して熱心に話し始めた。
「去年の年末、忘年会でそんな話を聞いたんだ。男でも噴けるという話を先輩が楽しそうに話していたんだよ。そのときはくだらなく思えたけれど、だんだんと気になってきて。自分の身体にもそんな可能性があるのかって、どうしても試してみたくなったんだ」「そんなの、専門のお店に行けば、すぐにできるんじゃないの? 」
と投げやりに言った。「佳代さんまでそんな短絡的なことを言わないでよ。それじゃだめなんだよ。僕が出したいのは、そんなふうに汚れた潮じゃないんだ。自分だけの力で辿りつきたいんだ。僕の潮は僕のものだ」
宣言通り、翌日から夫は潮にチャレンジし始めた。二人での夕食を終え、私が風呂から出てくると、入れ替わるように浴室へ向かい、そのまま何時間も籠るようになった。
「それで今日はどうだったの? 」
夫は苦笑いをして首を横に振った。
「駄目だったよ。インターネットで調べたのだけれど、ある程度の痛みを乗り越えないといけないらしい。辛い挑戦になりそうだけれど、だからこそがんばりたいんだ」「そう」
尋ねておきながら 「潮」 という言葉を耳にしたくなくて、夫がその言葉を言う前に背を向けて布団に潜り込んだ。
私もそんなものは噴いたことがないので、想像するしかないが、一体それが出たからといって何だというんだろう。夫の気持ちがさっぱりわからなかった。それよりもう一度夢精を味わいたい。夢精は汚れていないから。するりと脳の中で呟いた言葉が、夫がこの前、潮に対して使っていた言葉と同じだということに気が付いた。(「満潮」 より抜粋)
はじめ、妻の佳代は夫の直行からの突然の申し出に上手く反応することが出来ません。夫がやりたいようにやらせてあげればいいと理屈ではわかっていても、自分の感情がコントロールできません。佳代は 「潮」 という言葉をひどく忌み嫌っています。
ところが、それがあるきっかけで、佳代も (噴いてみようかな) と思うようになります。
※人か、人とは違う生き物か。男か女か。誰のためにすることか - そんなこととは関係なしに、およそ異なる次元に立って眺めてみれば、そこに何が見えるのか。与えられた宿命と可能性に、どう対処すべきかが問われています。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆村田 沙耶香
1979年千葉県印西市生まれ。
玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
作品 「授乳」「ギンイロノウタ」「ハコブネ」「殺人出産」「しろいろの街の、その骨の体温の」「消滅世界」「コンビニ人間」「地球星人」他多数
関連記事
-
-
『命売ります』(三島由紀夫)_書評という名の読書感想文
『命売ります』三島 由紀夫 ちくま文庫 1998年2月24日第一刷 先日書店へ行って何気に文
-
-
『フェルメールの憂鬱 大絵画展』(望月諒子)_書評という名の読書感想文
『フェルメールの憂鬱 大絵画展』望月 諒子 光文社文庫 2018年11月20日初版1刷
-
-
『15歳のテロリスト』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文
『15歳のテロリスト』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年8月5日24版発行
-
-
『兄の終い』(村井理子)_書評という名の読書感想文
『兄の終い』村井 理子 CCCメディアハウス 2020年6月11日初版第5刷 最近読
-
-
『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文
『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021年10月25日 初版発行
-
-
『恋』(小池真理子)_書評という名の読書感想文
『恋』小池 真理子 新潮文庫 2017年4月25日11刷 1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事
-
-
『もう「はい」としか言えない』(松尾スズキ)_書評という名の読書感想文
『もう「はい」としか言えない』松尾 スズキ 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 主人公は初老のシ
-
-
『金賢姫全告白 いま、女として』(金賢姫)_書評という名の読書感想文
『金賢姫全告白 いま、女として』金 賢姫 文芸春秋 1991年10月1日第一刷 この本を読んで、
-
-
『イヤミス短篇集』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『イヤミス短篇集』真梨 幸子 講談社文庫 2016年11月15日第一刷 小学生の頃のクラスメイトか
-
-
『神様』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『神様』川上 弘美 中公文庫 2001年10月25日初版 なぜなんだろうと。なぜ私はこの人の小説
















