『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/06
『カゲロボ』(木皿泉), 作家別(か行), 書評(か行), 木皿泉
『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行
気づけば、涙。
TVドラマ 「野ブタ。をプロデュース」 小説 「昨夜のカレー、明日のパン」 の木皿泉が贈る、感動の連作短編集。人間そっくりのロボット 「カゲロボ」 が学校や会社、家庭に入り込み、いじめや虐待を監視している - そんな都市伝説に沸く教室で、カゲロボと噂される少女がいた。彼女に話しかけた冬は、ある秘密を打ち明けられ・・・・・・・(「はだ」)。何者でもない自分の人生を、誰かが見守ってくれているのだとしたら。押し潰されそうな心に、刺さって抜けない感動が寄り添う、連作短編集。(新潮文庫)
チカダのはなしを聞いてください。
ガラス製品を納品する雑貨店で、そこに勤めていた友美と知りあった。結婚して、息子の心が生まれると、中学のときに感じた、あのすべてがウソくさい感じは、すっかりなくなってしまった。散らかった居間や、ごちゃごちゃした押入れの中は、どこにでもある家の風景で恐ろしいほどワンパターンだと思うのに、なぜかウソだとは思えなかった。持ち家ではないが、ここはオレの家だとのほほんと暮らしている。それは、息子が、妻の友美が自分を見ていると思うからだろう。こっちが見ると、見返してくれる者がいる。ただそれだけで、世界はとても親しいものに思えてくる。子供がいるだけで、地球の中心とつながっていると思える、この頼もしさは何だろう? 中学生の自分は、世の中から拒絶されていると思い込んでいた。それは向こうから見返されることが一度もなかったからだ。(「あせ」より)
地球で暮らす何千、何万の家族は、きっと同じ思いでいることでしょう。大人になり、家族を持ち、父となり、初めてチカダは 「生きる意味」 を知ったのでした。(そうに違いありません)
チカダには苦い過去があります。中学生だった彼はある過ちが原因で、いじめる側の人間だと思われていました。誤解だったのですが、同級生を三回も殴ったことは事実で、それには (チカダなりに) そうするだけの理由がありました。いじめようとしてしたわけではなかったのに、誰もがそれを “いじめ” だと決めつけたのでした。
※チカダは案外いい奴で (詳しくは第二話 「あし」 にて)、 幸せな家族を築くのですが、まだまだ安心はできません。ある日息子の心が、とんでもない事件を起こします。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆木皿 泉
1952年生まれの和泉努と、57年生まれの妻鹿年季子による夫婦脚本家。
作品 「昨日のカレー、明日のパン」「すいか」「野ブタ。をプロデュース」「セクシーボイスアンドロボ」「Q10」「木皿食堂」「6粒と半分のお米 木皿食堂2」他多数
関連記事
-
『坂の途中の家』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『坂の途中の家』角田 光代 朝日文庫 2018年12月30日第一刷 最愛の娘を殺し
-
『ちょっと今から人生かえてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
『ちょっと今から人生かえてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年7月25日初版
-
『桃源』(黒川博行)_「な、勤ちゃん、刑事稼業は上司より相棒や」
『桃源』黒川 博行 集英社 2019年11月30日第1刷 沖縄の互助組織、模合 (
-
『コンビニ人間』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
『コンビニ人間』村田 沙耶香 文藝春秋 2016年7月30日第一刷 36歳未婚女性、古倉恵子。大学
-
『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文
『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57版発行 "放浪
-
『銀河鉄道の父』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文
『銀河鉄道の父』門井 慶喜 講談社 2017年9月12日第一刷 第158回直木賞受賞作。 明治2
-
『物語が、始まる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『物語が、始まる』川上 弘美 中公文庫 2012年4月20日9刷 いつもの暮らしの
-
『私の命はあなたの命より軽い』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文
『私の命はあなたの命より軽い』近藤 史恵 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 東京で初めての出
-
『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』(香月日輪)_書評という名の読書感想文
『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』香月 日輪 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 共同浴場は
-
『猫を拾いに』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『猫を拾いに』川上 弘美 新潮文庫 2018年6月1日発行 誕生日の夜、プレーリードッグや地球外生