『今夜は眠れない』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『今夜は眠れない』(宮部みゆき), 作家別(ま行), 宮部みゆき, 書評(か行)

『今夜は眠れない』宮部 みゆき 角川文庫 2022年10月30日57版発行

放浪の相場師から、5億円を遺贈された家族 思いがけない幸福は、それ以上の悲劇を呼び寄せた。稀代のストーリーテラーがおくる、どんでん返しミステリ

母さんと父さんは今年で結婚十五年目、僕は中学一年でサッカー部員。そんなごく普通の平和な我が家に、突然暗雲がたちこめた。”放浪の相場師” とよばれた人物が母さんに五億円もの財産を遺贈したのだ。周囲の人たちは態度がかわり、見知らぬ人たちからは脅迫電話、おまけに父さんは家出をし・・・・・・・。相場師はなぜ母さんに大金を遺したのか? 家族の絆を取り戻すため、僕は親友で将棋部のエースの島崎と真相究明にのりだした! (角川文庫)

宮部みゆきの本を久しぶりに読みました。刷りも刷ったり、第57版の発行です。但、(この著者らしく) おどろおどろしく、手に汗握る - というような話ではありません。事態はかなり深刻ではあるものの、むしろ描写はコミカルで、難なく読めてしまいます。

ただ、犯人が誰かはわかりません。というか、この物語に 「犯人」 と呼べる人物は、本当にいるのでしょうか・・・・・・・。そこを考えてほしいと。

事の発端はこうです。

主人公は中学一年生のサッカー少年の緒方雅男。東京の下町の中古マンションで両親との三人暮らしのごく普通の生活をしていました。母親の聡子が若い頃命を救った人物から五億円を遺贈されるまでは・・・・・・・。

緒方家が五億円を贈られた一家としてマスコミ報道がされるやいなや、見知らぬ人からの電話手紙来訪攻撃で、家族は、とりわけ父母の関係がぎくしゃくし、大洋を渡る小舟が大波にさらわれて沈没しかねないという状態になってしまいます。雅男は家族が元通りになるように、そして五億円が生み出した謎を解くために、友人の島崎と調査に乗り出します。(解説より)

もしも。もしもある日あなたが、思いもしない - 言われてはじめて 「ああそういえば・・・・・・・」 という程度に昔つかの間付き合いのあった - 人物から、5億円という途方もない金額を遺贈されたとしたらどうでしょう?

遺贈したのは男性で、されたのは妻で母の聡子でした。

若かりし頃、聡子とその男性はふとしたことで知り合いになり、たまたま負傷していた男性のその後の面倒を看るために、聡子は二週間ほどを費やしたのでした。男性と聡子は同じアパートの隣同士という関係で、それぞれに、一人暮らしをしていました。

若い二人は美男と美女で、想像するに、何があっても不思議ではありません。たとえそのとき二人の間に愛情めいた思いが芽生えたとしても、その先さらに関係が深まったとしても、むしろその方が自然ではないのかと -

そうでなければ、誰が、何でいまさら五億円もの大金を遺贈するのかと・・・・・・・聡子の夫が、一人息子が考えたとしても、むしろそれが自然ではないのかと。夫が妻の浮気を疑い、息子が自分の出生を疑ったとしても、誰も責められはしません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆宮部 みゆき
1960年東京都江東区生まれ。
東京都立墨田川高等学校卒業。

作品 「我らが隣人の犯罪」「火車」「蒲生邸事件」「理由」「模倣犯」「名もなき毒」「過ぎ去りし王国の城」他多数

関連記事

『リバース』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『リバース』湊 かなえ 講談社文庫 2017年3月15日第一刷 深瀬和久は平凡なサラリーマン。自宅

記事を読む

『草祭』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『草祭』恒川 光太郎 新潮文庫 2011年5月1日 発行 たとえば、苔むして古びた

記事を読む

『くちびるに歌を』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『くちびるに歌を』中田 永一 小学館文庫 2013年12月11日初版 中田永一が「乙一」の別

記事を読む

『朽ちないサクラ』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『朽ちないサクラ』柚月 裕子 徳間文庫 2019年5月31日第7刷 (物語の冒頭)森

記事を読む

『空港にて』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『空港にて』村上 龍 文春文庫 2005年5月10日初版 ここには8つの短編が収められていま

記事を読む

『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲)_書評という名の読書感想文

『君が手にするはずだった黄金について』小川 哲 新潮社 2023年10月20日 発行 いま最

記事を読む

『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)_書評という名の読書感想文

『52ヘルツのクジラたち』町田 そのこ 中央公論新社 2021年4月10日15版発行

記事を読む

『ここは退屈迎えに来て』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『ここは退屈迎えに来て』山内 マリコ 幻冬舎文庫 2014年4月10日初版 そばにいても離れて

記事を読む

『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版 哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に

記事を読む

『くっすん大黒』(町田康)_書評という名の読書感想文

『くっすん大黒』町田 康 文春文庫 2002年5月10日第一刷 三年前、ふと働くのが嫌になって仕事

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑