『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『にぎやかな落日』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(な行), 朝倉かすみ
『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日 初版1刷発行
「今まで自分が書いた中で一番好きだと思いました。」 『平場の月』 の著者が贈る切なくもユーモラスな人生最晩年へのエール。

毎日笑ったり怒ったり。何とかやってはいるけれど、おもちさん、83歳。独り暮らしは難しい。
北海道で独り暮らしのおもちさんは八十三歳。東京に住む娘は一日二度、電話をしてくれる。近くに住むお嫁さんのトモちゃんは、車で買い物に連れて行ってくれる。それでも、生活はちょっとずつ不便になっていく。この度おもちさん、持病が悪化し入院することになった - 。日々の幸せと不安、人生最晩年の生活の、寂しさと諦めが静かに胸に迫る物語。(光文社文庫)
最近読んだ中では、ダントツに一番ではないかと。
一々が腑に落ち、一々が身につまされるようでした。とても他人事とは思えません。いずれ誰もがそうなる運命に抗い、健気に生きるおもちさんは、実のところ、時に不安や心細さを感じています。身体の不調や記憶の不確かさに、薄らとではありますが、独りで暮らす限界を感じています。
朝倉かすみ 『にぎやかな落日』 は、八十三歳になって北海道で一人暮らしをしている女性・おもちさんこと、島谷もち子を主人公とする全七篇から成る連作短篇集だ。老いと病は誰もが迎える未来の出来事であり、そのただなかに入った主人公の現実がユーモラスに語られていく。
第三話はおもちさんが、おそらくは糖尿病悪化のために入院させられている状況から始まる。これは生活習慣病だから、病院のように管理の行き届いた場所なら悪化することはないが、なにしろおもちさんはアイスや果物などの間食が大好きときて、自宅に戻ればたちまち元の木阿弥になってしまう。
看護師や管理栄養士の目を盗んではそれらを盗み食いし、注意されて逆切れする始末のおもちさんなのである。ご存じのとおり、高齢者というのは気難しいものだ。なんとかなだめすかせようとする家族の苦労も描かれる。ああ、そうそう、と深く頷かれる方も読者の中にはいるはずだ。
とはいえ、近親者などにお年寄りがいない方にもぜひ本作はお薦めしたい。当代では稀に見るほどの完成度の高いユーモア小説であるからだ。特に主人公が素晴らしい。(解説より)
※おもちさんは、ほんとうは 「まち子」 という名前でした。お父さんが役場に届けるときに 『ま』 と 『も』 を間違えて、「もち子」 になりました。丸顔で、面白くないことがあるとプーッとほっぺたをふくらませるので 「おもち」 と言われるようになりました。
おもちさんの心の動きに関する文章はどれも素晴らしい。「口紅、コート、ユニクロの細いズボン」 の結びなどは最高で、「頭がキューッと痛くなる」 「エーンエーンと泣きたくなる」 といったカタカナの擬音語が、理屈に背を向けて自分の世界の中に逃げ込んでいこうとするおもちさんの心を見事に表現している。
「コスモス、虎の子、仲よしさん」 は書き下ろしとして最後に書かれた話であり、それだけに作者もおもちさんというキャラクターを完全につかみ切っている。この結末でおもちさんは、現実とはやや異なると思われるめでたしめでたしの情景を自分で作り出し、そこに自分が帰還していくことを想像して 「アー今日はなんていい日だこと」 と嘆息するのである。いい気なものと言うよりないのだが、そうして幸せな気持ちに浸っている人をどうして非難できようか。(同解説)
(解説の続き) ストーリーについてはほとんど触れずにここまで来た。まあ、いいだろう。おもちさんが素敵、おもちさんがおもしろい。これで十分だ。ということです。
あと、長男のお嫁さんのトモちゃんはほんとうに心優しい人で、東京で暮らす娘のちひろは、“親に似て“ 明るく明け透けで嫌みのない、おそらくとても頭のいい女性だと。ちひろとおもちさんとのやりとりは、“絶妙かつ絶品“ というほかありません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「肝、焼ける」「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」「たそがれどきに見つけたもの」「満潮」「平場の月」他多数
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