『救われてんじゃねえよ』(上村裕香)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『救われてんじゃねえよ』(上村裕香), 上村裕香, 作家別(か行), 書評(さ行)
『救われてんじゃねえよ』上村 裕香 新潮社 2025年4月15日 発行
24歳、現役大学院生。警報級大型新人、満身創痍のデビュー作

17歳。誰かの力を借りなきゃ、笑えなかった。辛かったから、笑って泣いた。
主人公の沙智は、難病の母を介護しながら高校に通う17歳。母の排泄介助をしていると言ったら、担任の先生におおげさなくらい同情された。「わたしは不幸自慢スカウターで言えば結構戦闘力高めなんだと思う」 そんな彼女を生かしたのは、くだらない奇跡だった。R – 18文学賞 大賞受賞作。(新潮社)
目次
救われてんじゃねえよ
泣いてんじゃねえよ
縋ってんじゃねえよ
知ったのは、おそらくR-18 の発表時のニュースだったと思います。タイトルを見た瞬間、これは読まねばと。よく確かめもせず急いで本屋へ行ったのですがあるはずはなく、あれから何ヶ月かが経ってようやく読むことができました。
タイトル以上に中身が明白 (あからさま) かつ刺激的で、しばし言葉を失いました。「辛い場面で出る笑い」 とは、何なのでしょう。苦し紛れか、諦めか。いや、そうではなくて、案外素直で、癒しに似た何かなのかもしれません。
上村裕香 (ゆたか) さんは、デビュー作 「救われてんじゃねえよ」 (新潮社) で、悲劇的に描かれがちなヤングケアラーの物語に抵抗した。描きたかったのは、母の介護で生じた 「笑い」 だった。
ж
2000年生まれで、高校時代に難病の母を介護した経験がある。後に、ヤングケアラーという言葉が広まった。だが、自身に近しい境遇の物語に触れ、反発心が芽生えた。
大げさなくらい同情してくれる教員や、「家族に絆があるからケアできる」 という価値観 -。難病の母を介護する主人公の沙智 (さち) も、そうした 「枠組み」 に押し込まれまいと抵抗する。
「定型の物語」 に対抗するため、上村さんは笑いを持ち出した。「悲劇の外側にある、喜劇的なものを書きたかった。小説だからこそ書けるリアルがあると思う」
沙智は、トイレに行く母を立ち上がらせようとして、一緒に床に倒れ込んでしまう。絶望的な状況で、偶然テレビから流れた小島よしおの 「でもそんなの関係ねえ! 」 というネタで爆笑する。
上村さんも、母と何度も一緒に倒れて、笑えてきたことがあった。同賞の応募作を考え始めた際、このシーンがぱっと浮かんだ。「人に話しても 『大変だったね』 と言われてしまう、あの時の笑いを書いてみたらどうなるんだろう、と」 (以下略/「好書好日」 より:堀越理菜 朝日新聞2025年4月30日掲載)
※家族三人が八畳一間のアパート暮らし。逃げ場がないのは皆が同じとはいえ、、年ごろの沙智にはさぞかしつらかろうと。その上母は難病で、父は仕事にかまけて、母の介護は娘の沙智がするものとたかをくくっています。父の稼ぎがよければまだしも、参加費用が払えずに、沙智は修学旅行に行くこともできません。
沙智が置かれた状況はかなり深刻で、「笑い」 ひとつで何かが劇的に変化するわけではありません。しかし、介護中のふとした 「笑い」 に彼女が気が付いたのは・・・・・・・
何が彼女をそうさせたのか。母の粗相を何とか始末しようとするあまり、あまりの無様 (ぶざま) さに思わず笑えてしまう沙智や母の心のありようは、結局、なった人しかわかりません。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆上村 裕香
2000年佐賀県佐賀市生まれ。
京都芸術大学大学院在学中。
「救われてんじゃねえよ」 で第21回 「女による女のためのR-18文学賞」 大賞受賞。
関連記事
-
-
『世界から猫が消えたなら』(川村元気)_書評という名の読書感想文
『世界から猫が消えたなら』川村 元気 小学館文庫 2014年9月23日初版 帯に「映画化決定!」
-
-
『タイガー理髪店心中』(小暮夕紀子)_わたしの血は、よもや青くなってはないだろうな。
『タイガー理髪店心中』小暮 夕紀子 朝日新聞出版 2020年1月30日第1刷 穏や
-
-
『さようなら、オレンジ』(岩城けい)_書評という名の読書感想文
『さようなら、オレンジ』岩城 けい ちくま文庫 2015年9月10日第一刷 オーストラリアに流
-
-
『さくら』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『さくら』西 加奈子 小学館 2005年3月20日初版 「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブ
-
-
『ざんねんなスパイ』(一條次郎)_書評という名の読書感想文
『ざんねんなスパイ』一條 次郎 新潮文庫 2021年8月1日発行 『レプリカたちの
-
-
『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 「待たんかい。わしが躾をするのは、極道と
-
-
『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版 ハルオと立人と私。
-
-
『森に眠る魚』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『森に眠る魚』角田 光代 双葉文庫 2011年11月13日第一刷 東京の文教地区の町で出会った5人
-
-
『ジニのパズル』(崔実/チェ・シル)_書評という名の読書感想文
『ジニのパズル』崔 実(チェ・シル) 講談社文庫 2019年3月15日第1刷 オレ
-
-
『鈴木ごっこ』(木下半太)_書評という名の読書感想文
『鈴木ごっこ』木下 半太 幻冬舎文庫 2015年6月10日初版 世田谷区のある空き家にわけあり
















