『悲鳴』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
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『悲鳴』(櫛木理宇), 作家別(か行), 書評(は行), 櫛木理宇
『悲鳴』櫛木 理宇 新潮文庫 2025年9月1日 発行
声なき悲鳴が胸をうがつ 『死刑にいたる病』 著者、渾身のミステリ。[文庫書き下ろし]

誘拐から11年 生還した少女を迎えたのは差別と 「自分」 の白骨死体だった。なぜ?
サチは美しく利発な少女だった。だが彼女は誘拐され、何年も男に監禁された。教育を、青春を奪われ、子を産まされ・・・・・・・けれどようやく事件は発覚し、生還を果たす。しかしそれは新たな苦痛の始まりだった。旧弊な価値観のまま変化のない住人による嫌がらせや無理解に疲弊する彼女の元へこの骨が本物のサチだと白骨死体が送りつけられる - 。重なる悪意の根幹に何があるのか。衝撃のミステリ。(新潮文庫)
田舎暮らしは窮屈で、できれば一刻も早くここから抜け出したいと思う人の気持ちはよくわかります。男尊女卑の思想は今も健在で、(たとえば) 集落の要職などは決まって男性で、女性の出る幕はありません。どこまでいっても何をしても女性はあくまで縁の下の力持ち、表に出ることは叶いません。
物語の始まりは一九九五年、東京で働く河合隆行のもとに、小学校時代を過ごした馬伏町の元同級生・藤修一から突然の電話が入った。当時のクラスメイトだった菱間サチが自殺を図ったという知らせだ。彼女の家の前に骨の入った段ボールが置かれ、この骨が本物のサチであり、いま家にいるサチは偽物だという手紙が入っていたというのだ。
物語はここから一九八三年に飛ぶ。馬伏町の小学校五年生だった隆行、修一、サチ、そして同じく親しかった博人と香子。他愛のない口喧嘩や幼い初恋、だがそんなある日、サチが突然行方不明になる。ある男に拐かされ、監禁されたのだ。
その監禁は十一年に及んだが、あるきっかけから事件が明るみに出る。十一年ぶりに家に帰れたサチが、なぜ自殺を図ったのか。そしてその骨は誰のものなのか。隆行はお盆休みを利用して馬伏を訪れ、知り合いに話を聞いてまわったのだが・・・・・・・。
というのが物語前半の骨子だ。ж
だが、本書の核はその先にある。つまり監禁から助け出された後だ。十一年に及ぶ監禁からサチが逃れることができたのは、まだ物語の三分の一を過ぎたあたり。ここから先こそが主眼である。
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あなたは馬伏町の様子を読んで、さすがに古すぎる、と思ったかもしれない。昭和じゃあるまいし、今どきこんな町はないだろうと感じたかもしれない。
だが、そうではないのだ。
馬伏町はひとつの象徴だ。周囲の市町村から浮いた状態で、同じ価値観を持つ者だけで構成されたコミュニティ。現実にもまだこうした地域や団体は厳然として存在する。そしてもうひとつ、似たものがある。ネット上で構成される狭いコミュニティがまさにこれだ。(解説より抜粋)
※馬伏町ほどではないにせよ、田舎生まれで、今も田舎で暮らす私には、簡単に笑い飛ばして終わる話ではありません。都会で暮らす人には、中に出てくる似たような事が今もあるとは想像もできないでしょうが - 。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。
作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「死刑にいたる病」「ぬるくゆるやかに流れる黒い川」「氷の致死量」「執着者」「少女葬」他多数
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