『笹の舟で海をわたる』(角田光代)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『笹の舟で海をわたる』(角田光代), 作家別(か行), 書評(さ行), 角田光代

『笹の舟で海をわたる』角田 光代 毎日新聞社 2014年9月15日第一刷

終戦から10年、主人公・左織(さおり)は22歳の時、銀座で女に声をかけられる。風美子(ふみこ)と名乗る女は、左織と疎開先が一緒だったという。風美子は、あの時皆でいじめた女の子? 「仕返し」のために現れたのか。欲しいものは何でも手に入れるという風美子はやがて左織の「家族」となり、その存在が左織の日常をおびやかし始める。うしろめたい記憶に縛られたまま手に入れた「幸福な人生」の結末は - 。激動の戦後を生き抜いた女たちの〈人生の真実〉に迫る角田文学の最新長編。あの時代を生きたすべての日本人に贈る感動大作! (アマゾン内容紹介より)

『本の雑誌』が選ぶ2014年ベスト10(ノンジャンル)の、第1位であったらしい。

読み始めてまず感じたのは、これは角田光代の小説なんだろうか、ということです。他の誰かが書いた、別の世界の話なのではないかと。

何より驚いたのは、自分(著者)よりかは年上の、それも一世代前の女性の半生が描かれている点です。今は60半ばになった左織の40年余の人生を通して、角田光代はどんなメッセージを伝えたかったのでしょう。

思いのままに生きているかに見える風美子と比べ、左織は如何にも心もとない女性であるように映ります。貞淑で従順に過ぎる彼女は、自分の居場所をこうと決めたら、滅多なことではそこから外へは出ようとしません。

自分の見知った古い時代の生き方に執心し、頑なまでにそれを守ろうとするところがあります。ところが、何かの不都合が生じた場合、夫の温彦からは優しく諌められ、娘の百々子は、明らかに左織を遠ざけるようになります。

ある時左織は百々子に内緒でしてはならない事をし、それを百々子が知るところとなります。左織にとってそのことは、母としてやむにやまれぬ事ではあったのですが、百々子にとっては断じて許せない人として恥ずべき最悪の行為で、百々子は左織を激しく咎めます。

あなたみたいな生き方はまっぴら。なんにも逆らわないで、抗わないで、自分の頭で考えることもしないで、与えられたものをただ受け入れて、それでいて、うまくいかないとぜんぶ人のせいにする」- そう言われ、左織は返す言葉を見つけられずにいます。

左織の、何がそれ程までに角田光代(の書きたいと思う気持ち)を駆り立てたのか? 左織の一々が我慢ならずに、腹を立てているのか。同じ女性としてあまりにいたたまれずに、憐れと思う気持ちを怒りで紛らわしているのでしょうか。

いや、そうではなくて、逆に左織のことを認めようとしているのか。認めるべきだと言いたいのだろうか。娘には愛想を尽かされ、息子のことは何一つ気付きもしない、そんな母であっても、すべてを認めて彼女を許そうとしているのでしょうか。

いやいや、そういうことでもなく、戦中・戦後を生き抜いた、一人の女の半生を描いて - 思えば人生は笹で作った舟を浮かべて遠くうねる大海を渡るがごとく果てなく茫洋とし、行き着く先など誰も見えはしないのだと - そんなことを言いたいのではないかと・・・・

この本を読んでみてください係数  85/100

◆角田 光代
1967年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「空中庭園」「かなたの子」「紙の月」「八日目の蝉」「ロック母」「マザコン」「だれかのいとしいひと」「ドラママチ」「それもまたちいさな光」「対岸の彼女」他多数

関連記事

『忌中』(車谷長吉)_書評という名の読書感想文

『忌中』車谷 長吉 文芸春秋 2003年11月15日第一刷 5月17日、妻の父が86歳で息を

記事を読む

『わたしの本の空白は』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『わたしの本の空白は』近藤 史恵 ハルキ文庫 2021年7月18日第1刷 気づいた

記事を読む

『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 「申し分のない」

記事を読む

『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”

『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版

記事を読む

『それを愛とは呼ばず』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『それを愛とは呼ばず』桜木 紫乃 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 妻を失った上に会社を追わ

記事を読む

『侵蝕 壊される家族の記録』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『侵蝕 壊される家族の記録』櫛木 理宇 角川ホラー文庫 2016年6月25日初版 ねえ。 このう

記事を読む

『自覚/隠蔽捜査5.5』(今野敏)_書評という名の読書感想文

『自覚/隠蔽捜査5.5』今野 敏 新潮文庫 2017年5月1日発行 以前ほどではないにせよ、時々

記事を読む

『白砂』(鏑木蓮)_書評という名の読書感想文

『白砂』鏑木 蓮 双葉文庫 2013年6月16日第一刷 苦労して働きながら予備校に通う、二十歳の高

記事を読む

『大阪』(岸政彦 柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『大阪』岸政彦 柴崎友香 河出書房新社 2021年1月30日初版発行 大阪に来た人

記事を読む

『坂の途中の家』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『坂の途中の家』角田 光代 朝日文庫 2018年12月30日第一刷 最愛の娘を殺し

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『羆嵐』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『羆嵐』吉村 昭 新潮文庫 2026年12月20日 62刷発行

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑